聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
6
かーっと顔に血が上る。
どうしてそんなことを。
「『もっと』ってねだってたし。いつもみたいに、ちゃんと」
どうしてそんなことを。
まるで見ていたみたいに……
!?
「見てた……!? い、『いつも』って何!?」
聖風に来てからは何もなかった。
人に触れないように、気をつけてきた。
誰にも知られていないはずだ。
「人聞きの悪い、覗いてたみたいに。俺が資料探してたら、君らがサカりだしたの。
でも、良かったんじゃない?」
「なっ、何が!! 全然良くない!!」
「好きでしょ。気持ち良さそうにしてたじゃない」
ぶわ、と白煙を吹きかけられた。
苦しくて、咳き込んでいる間に、彼は僕の手を取って、手のひらを僕の目の前に近づけた。
体が震える。
誰も、知らないはずだ。
これは、この手のひらのことは誰も。
彼の手を振り払って、立ちあがった。
違う、と言えない。
また涙が出てきた。
「……いいね。汐が幾つになっても、俺はその顔が一番好きだよ」
「あっ……あなたは、いったい……っ」
言葉が続かない。
喉に石がつまったみたいに、息をするのも苦しい。
後ずさって、それからきびすを返して走った。
寮の階段を抜けて、部屋に飛びこんだ。
「汐? おかえりー……??」
机に向かっている譲の後ろを抜けて、ベッドに潜り込んだ。
まだ心臓がどくどく言っている。
図書室のことよりも、煙草の、あの人の言ったことが怖くて。
(僕の、何を知って……)
ううん、知るわけない。
知るすべなんてない。
あの頃のことを知られて困るのは、僕だけじゃないはずだ。
……怖い。
四年前のことは、全部忘れようと決めた。
望んだわけじゃなかったけど、全部失ったのだから……。
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