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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
4
「……っ!?」

 ぎゅっと目をつむった一瞬、誰かに左腕を引かれた。
 手にしていた本を取り落としそうになる。
 両脇に書棚、背中にカーテンを引いた窓という体勢で、僕の襟元に顔をうずめているのが誰かなんて、判別がつかなかった。
 片腕で僕の腰を捕まえて、もう片手がベルトに手をかけている。

「離し……て……」

 震えるのはなしだ。
 はっきり拒んで、彼を押し戻すんだ。

「花井、汐……」

 本を手にしていた腕から力が抜ける。
 とさ、と軽い音を立てて、本が落ちた。
 体から力が抜ける。
 人の体温に触れて、ゆるゆると小さな波が寄せてくる。
 あの頃みたいに――。

「や、やめて。僕に触らないで……」

 歯が鳴る。
 怖くて、怖くて。
 力が抜けて波が来るのがわかる反面、足だけは強ばって、走って逃げることができない。

「初めて見た時から、ずっと触りたかったんだ……良い匂いがする……」

 温度の高まった舌が、下腹を這う。
 暖かい肉の動きを、頭が追ってしまう。

「嫌……っ……んん……ふ……」

 ベルトの拘束力を失ったスラックスがひざまで降りていくのを、かろうじて手でとめた。
 だめだ。
 早く彼を押しのけないと。
 力を入れて、逃げないと。

 下着にかかる彼の手に手をかけながらも、力を入れることはできなくて。
 内腿にかかる息を、心地良いと思ってしまう。

「汐……想像してた通り、綺麗な色だ……可愛い……」

 下腹を這っていた舌が、立ちあがりかけた先を撫でる。
 熱を持ち始めたそこが、彼の口に収まっていく。

「あ……ぁ……もっ……」

 言いかけて、唇をひき結ぶ。
『もっと』だなんて。
 言っちゃだめだ。
 そんなの僕じゃない。

 とろんと半分閉じかかった視界に、書庫の天井が映っている。
 時折揺れる視界の隅には、涙液が溜まっているようだ。
 息が上がる。

 僕は名前も知らない彼の頭を掻き抱いて、頭も耳殻も、指の腹で撫でていった。
 まるで愛しい者にするような行為は、僕の意思を受けつけない。

 淫靡な水音に心の底から官能を高められて、頭の芯を痺れさせる。

「もっと……もっと、して。強く吸っ……」

 天井の灯りが消えた。
 また、点いた。

「誰かいるんですか?」

 無人の書庫に、灯りがつけっぱなしになっているのかもしれないと気づいた生徒のものらしい靴音が、近づいてくる。

「――っ……!!」

 慌てて僕を突き放して、彼は書庫を走り去って行った。
 力の入っていない僕の体は、床に崩れた。
 さっきまでだって、ずっと彼の肩にしがみついていたから、離されても急には戻れない。

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あきゅろす。
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