聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
7
「やっと、汐にとって俺だけが世界になってくれたね。嬉しいよ」
夢と現実の境目で、明石が言う。
優しい動きで、そっと僕の髪を梳いてくれる。
髪の間に空気が入って、すごく気持ち良い。
ずっとずっと、そうしてて。
「……貴方が望んでいたのは、本当にこれなんですか? 花井くんにとっては、これは幸福なんですか?」
誰かの声が聞こえる。
誰?
明石の他に、誰かいるの?
「そうだよ、茂孝。これが、俺が望んでいた世界のすべてだ。汐も、きっとすぐにわかってくれるはずだよ」
茂孝……?
堀切王軍長がそんな名前だったかな。
どうしてここに、王軍長がいるんだろう……?
「茂孝。尚書長を呼んできてよ。汐に“姫”を任じる。早速、尚書にして渡しておかないとね……」
……。
お父さま、お母さま。
僕は貴方たちのことは忘れないし、忘れることなんてできない。
今でもとても愛してる。
明石のことは、まだどう考えて良いのかわからない。
好きとか嫌いとか、この感情につける名前が浮かばないんだけど。
僕は明石が作った陥穽から、引き上げて生きる……ううん、陥穽の底にいても良い。
一緒に熔けてもかまわない。
明石のそばに、いたいと思ってしまう自分を、どうしたら良いのかわからないんだ。
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