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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
「……何をやったんだ?」

 葵は小さく笑って、手の内の紙幣を俺に差し出した。
 三十万あった。

 葵を見ると、彼女は自信に満ちた顔で「強請ったのよ、どう?」と言った。

「花井は頑固な堅物よ。男がいるのがバレたら大変だけど……それ以前に、彼女のこと、あたし知ってるのよ」

「花井夫人を、あんたが?」

「そうよ。業界はどこでも繋がってるし、情報はすぐ回るの。風俗も同じ」

「風俗……」

 それは初耳だ。

(葵の話が本当なら、これは利用できる)

 花井夫人は花井が、半ば無理矢理に妻に納めたという話があったが、それは夫人の身の上も知っての話なんだろうか。

 ……いや、知るわけがない。
 下賤の血がどれほどの定義を持つかは知らないが。
 花井が、夫人の身の上を許すはずがない。

 葵の話は本当なんだろう。
 だからこそ、夫人は葵に金を握らせたのだ。

「あの男、彼女が業界に身を置いていた頃からの有名なヒモよ。彼女はヒモ男を愛していたかもしれないけど、男のほうはどうかしらね。もう来ないんじゃないかしら。
 その金は、彼氏へのお小遣いってところだったんでしょうよ。今後は、今までヒモに行ってた金が、こっちに流れるだけだもの。彼女の財布は傷まないわ」

 葵は「どう? あたしたち組まない?」と、さっきくれた質問を繰り返した。
 これは、降って湧いたチャンスかもしれない。

「いいよ。あんたに稼がせてやるよ。
 今後、俺の指示に絶対従うと約束しろ。さもなくば、あんたを切り捨てる」

「いいわ」

 それから四年。
 夫人が命を落とし、俺は屋敷を出た。
 葵を傀儡に据え置き、起業させた『フォレスト』を操り、花井を追いつめた。

 汐は計画通り、頼る者を失い、たった一人になった。


――坊ちゃんをあんた一人のものにすることだって、不可能じゃないわ。やっぱり、人生には目標がないとね。


 欲しいものは、金じゃない。

『下賎の血』
 下賎は、花井――あんたのすぐそばにもいる──天使と見まがうばかりの下賎も。
 そうして蔑視を続けているんだ、要らないだろう?

 汐を俺にくれよ。








 特別棟にある会議室から、裏門へと足を進めた。
 教師陣との会議が終わった後、三森 葵と会うことにしていたのだ。

 秋の気配を感じさせる夕陽を視界に入れながら、年中消えることのない落ち葉を敷いた雑木林を歩いていると、「明石」と女の声が聞こえた。

「あんたか。園内に入ってきたのかよ」

 姿を現した三森 葵が「手間が省けるでしょ」と笑った。
 相変わらず、脚をさらした短いスカートに、素肌を見せない仮面のような化粧が貼りついている。
 年を感じさせないスタイルは、初めて会った日から、まったく変わっていないように見えた。

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あきゅろす。
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