聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
「強くなりなさい、汐くん。貴方は優しい。けど優しさを支えるには、同量の強さが必要です。
弱さは……それだけで台風の目だ。人を振り回します」
同量の強さ。
眠っていた神経が、びくりと震えた気がした。
弱さは罪なのだと、はっきり言われたのだ。
思えば僕は、明石を恐れるばかりに逃げることだけを考えてきた。
明石が何を考え、何をしてきて、どう進もうとしているのか。
対峙して問うことも、怖くてできなかった。
天野さんはにこっと笑うと、また僕の頭を撫でた。
「つらいことがあったらコクマまでおいでなさい。もっとも、僕にはいつも通り、聞くだけしかできませんが」
強く、なる。
紙コップの紅茶を口にして、僕はこくりと頷いた。
うっすらと浮かぶ痣が目に入る。
芳明さんも、譲もこれ以上、人を巻き込めないと思う。
自分で明石に、向き合わないといけない。
明石を受け入れるのか、否か。
今の段階では推論でしかないけど、もしかしたら明石は、僕の両親の死に関わりがあるかもしれないのだ。
死の一端を握っているかもしれない明石を、僕は受け入れられるのか?
受け入れるとするなら、その方法は?
明石の望むような形で、彼のもとに行く気があるのか?
受け入れた後、どういうつきあい方をするのか。
そもそも僕は、明石にどうして欲しくて待っていたのか?
僕は、何一つ考えようとはしていなかった。
(考えるべきだったんだ。最初、メガネの明石に再会したときから)
僕は天野さんに目を合わせた。
天野さんは、いつも通りの優しい穏やかさを見せてくれている。
まるで何の過去も、なかったかのように。
「……天野さん。僕、泣きには行きません。もう心配されないように、笑って話に行きます。
僕も、ケセドで頑張ります」
そうそう、と笑ってから「新司酒長 相馬もよろしくね」と追記する。
それにも「はい」と頷いた。
三年生の相馬さんがケセドの新司酒長になってくれたと聞いて、少し安堵した。
相馬さんはずっとケセドにいる人だ。
天野さんとも旧知の友人で、相馬さんがケセドの新司酒長だという話には安心できた。
「相馬はケセドのことをよく知ってるし、正義感もあるし、大丈夫ですよ。引継も簡単でした。
相馬の話をちゃんと聞いて、これからも頑張って下さい」
はい、と返す。
天野さんとの出会いに感謝をこめて。
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