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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
 明石に悪態をつくのもそれが原因だったのだろうけど、明石が叩き出してくる成績には満足そうにしていた。
 僕と一つ年上の明石と直接比べることはできないけど、去年の明石と比較しても、今の僕は追いつかなかっただろう。

 そのうち、父は明石を仕事にも連れていくようになった。
 もちろん僕は寂しくて不満だった。
 母になだめられながら、広い庭園を所在なく歩き回って、時間をつぶした。

 父と帰ってきた明石は、いつもひどく疲れていて。

「ごめんね、汐。また一緒にいられなかった」

 きゅっと抱きしめてくれた後、明石は自室に籠もってしまう。
 覗き見したある晩、明石は机に向かって難しい顔をしながら、書類を繰っていた。

 ……何をしていたのだろう?
 父の事業を手伝っていた?

 まさか。
 明石は小学生だった……。









 目の前に紙コップが差し出された。
 天野さんが、ペットボトルの紅茶を入れながら「ちょっと甘いんですけどね」と笑う。

「疲れが取れます」

 それを受け取って口につけると、それほど冷たくない紅茶がすんなりと喉を潤してくれた。

「貴方は、陛下とは小さい頃面識があったんですね。接見の後、混乱していた貴方が言っていました」

 天野さんも紙コップに口をつけながら、思い出すような目をして言った。

 鷹宮家令に呼び出しを受けた夜。
 助けてくれた天野さんに、すがりついた後のことをよく覚えていない。

「あの時は、ご迷惑をかけて……ごめんなさい。僕、あんまり覚えてなくて……。その後も、つらい時に部屋に入れてくれてありがとうございました」

 そんなことは気にする必要ありません、と天野さんは困ったように返してくれた。
 空っぽになったベッドに腰を落として、手の内で紙コップを揺らす。

「お母さまが亡くなった話もしていましたね。貴方はひどく気にしていた。お母さまの死、今は聖王陛下のことが気がかり……?」

 視線をベランダのほうへ向けて、まるで独り言みたいに続ける天野さんは、僕の心を見通しているようだ。
 僕は、はいともいいえとも答えずうつむいた。

「身の回りで起こったことというのは、ただそれだけのことです。何が原因で起こったわけではなく、さまざまなことが重なって、現実に浮かび上がった形でしかない。
 そのことに、たった一人の言ったことや、したことが原因であると、特定することは不可能でしょう」

 母の死をなぞらえて、天野さんが何を言わんとしているのか。
 手の内で紅茶が揺れるのを、見つめながら神経を尖らせていた。

「貴方は責任を負うことなど、考えなくて良いのです。お母さまにも、聖王陛下にも。
 けれど一つだけ。僕はケセドを出るのに、気がかりなことがあります」

 天野さんは紙コップの中身を飲みきって立ち上がると、くしゃっと潰した紙コップを、不要品を入れたゴミ袋に投げ捨てた。

「あの、気がかりなことって」

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