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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
6
 腕章組は眉間にしわを寄せて中を覗きこんだ。
 背後では、空気を読んだらしい汐が、少々大きめの寝息をたてている。
 腕章二人組は互いに、軽く顔を見合わせると、「わかった」とだけ短く返して、廊下を足早に去って行った。
 消灯後までご苦労様なことだ。

(まぁ、ベッドの下を探られたら……面倒なことになってたかもしれないけど)

 助かった、と言うべきか。

 後に残った天野司酒長が、困ったように笑った。

「堂々としたものです。汐くんは大丈夫ですか?」

「寝てます。入寮初日なのに、大したものですよ。枕が変わっても大丈夫なタイプって言うか?」

 空笑いの後も、天野さんの苦笑は終わらなかった。
 ガウンの下の手が、俺のベッドを指す。
 目が合うと、天野さんは声を潜めた。

「懐中電灯……。端っこが見えてます。暗がりに目が慣れてなかった彼らには、見つからなかったみたいですけど」

「え」

 一瞬凍った後、ベッドを振りかえると確かに押しこんだはずの懐中電灯が頭を出していた。
 天野さんは、「ま、彼らも早く休みたかったんでしょう」と、小さくため息をついた。

「とはいえ、消灯時間は守ってもらいますよ。荷ほどきは昼間するように、汐くんに伝えておいて下さい。
 司酒長命令だと、付け加えてね」

 破ったら罰としてトイレ掃除を一週間担当してもらいますからね、とつけ加えて、天野さんはきびすを返していった。
 司酒長の気遣いがありがたかった。

 ほっと安堵の息を吐きながら、ドアを閉じると、さっきまで寝息のカムフラージュを決めこんでいた汐を覗きこんだ。

(本当に寝ちゃったのか?)

 いい年をして、と言うべきか、大きな黒いウサギのぬいぐるみを抱き枕にするようにして、まぶたを閉じている。

(ウサギ抱っこ……花井汐に限っては、可愛いかもしれない)

 とても同い年に見えない同居人に下心を湧かせていると、汐がぱちりと目を開いた。
 ドアをじっと見ながら、ゆっくり上体を起こして俺に視線を移す。

「もう行ったの? 今の何? 天野さんもいた?」

「うん、まぁ。追々わかるよ。今夜は寝よう」

 懐中電灯を正しく片づけてから、俺もベッドに横になった。

「あの、もしかしてあれが、『見つかるとマズい』って言ってたやつ?」

「そうだ。汐、天野さんが消灯時間守らないと、一週間、寮のトイレ掃除させるって言ってたぞ」

 口の端を引き上げて伝言を伝えると、汐は声を出さないように「えっ」の形のまま唇を固まらせた。
 その顔が可笑しくて、小さく吹き出した。

「あの、譲くん。ごめんね」

「何が?」

「僕のせいで迷惑かけて……。荷ほどきなんか、明日にすれば良かったんだけど。
 どうしても、これも外に出しておきたかったんだ」

 これ、とは無論ウサギのことなんだろう。

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