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聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
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 違う、『いちゃいけない』というのは、悲観して言ったんじゃない。

「旅行はいいの、旅行に行きたいわけじゃなくて、違う学校に行きたいの。寮だったら寮に入るから、聖風じゃない所に……」

「聖風は良い学校だよ。良家と言われる家からも、たくさん卒業生が出ている。皆さん、要職に就いておられる」

 もちろん聖風学園の評判は、僕だって理解している。
 叔父が僕の将来までもを熟考してくれた上の、選択だったことも。

 言い返せずにいると、叔父は僕が意図を解したと思ったのか、話を続けてきた。

「汐が聖風に編入できたのも、そんな方々の紹介があったからなんだよ? せっかく晴れて編入できたのだから、汐も恩に報いる気持ちで学ぶべきだろう?」

 機械的に小さく頷いていた僕は、はたと動きを止めて、叔父の顔を見返した。

 今、何て言った?
“紹介”で聖風に編入できた?

 そんなこと、初めて聞いた。
 てっきり叔父が探してきてくれたのだと思っていた。

「あの、紹介って、誰がしてくれたの? 遠縁の人とか?」

 叔父は「言わなかったか」と呟いたあと、何か思いついたような顔で言った。

「そうだな、汐も今度挨拶に行こう。
 話で知っているだろう? 事業を立て直すときに世話になった、フォレストの――」

 三森葵――。

 どくん、と心臓が音を立てた。
 鼓膜にも届く、痛いような音。

「三森葵……。……嘘」

 東原さんから助け出してくれた明石は、僕には理解できない話をたくさんした。
 それらを聞いた時、僕は言った。


──僕がここに来たのは偶然だし、明石がいるなんて知らなかった。


 だから聖風を辞める、と続けたけど、明石が反応したのはそこじゃなかった。


――“偶然”? そうだね、偶然だね。


“偶然”編入した、と言った、僕の一言のそこだけに反応した。

(明石がその一言に引っかかったのは、僕が編入してきたのが“偶然”じゃなかったから――?)

 明石は子供のころから三森葵と繋がっている。
 明石がいなくなった後、三森葵がやって来て僕を“みんな”がいる場所まで導いた。

 二人がどういう関係かまでは知らない。
明石がフォレストの御曹司だなんて噂はあるらしいけど、少なくとも明石と三森葵は親子なんかじゃない。
 僕は屋敷を出ていった、明石のお母さんの顔を覚えている。

 三森葵が、明石の指示で動いているという証拠なんかない。

 でももし、三森葵が明石の言うままに動いているのだとしたら?
 明石がいなくなった後、アオイは僕を“みんな”の所に通わせ、フォレストを操って父の事業を潰し、叔父を助けて恩を売り、彼に聖風を紹介したのだとしたら――
 
 テーブルに置いた手が、かたかたと震えて音を立てる。


――汐を俺だけのものにする、色々だよ。

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あきゅろす。
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