聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
3
かたかたと震えて、手は冷たくて。
泣きながら、譲には理解不能な話をくり返した僕は、手に負えない病人に見えたのだろうか。
叔父と同じに、僕を病人だと。
叔父はいつの間に、譲に薬を渡したのか……譲を友達から僕の番人に変貌させていたのか。
黒いウサギを腕に抱いて、彼の鼻先にこめかみをつけた。
視界がぼんやりと、涙で滲んでいる。
端から溶けていく。
譲がすぐ横にすわって、僕の前髪を指で梳いてくれた。
譲の指先は、ひんやりしていて、サラサラで心地よかった。
自然に、まぶたが落ちていく。
「大丈夫だよ、汐。怖いことは、ぜーんぶ夢なんだよ……」
全部、夢。
違う。
本当のことだよ、お願い聞いて。
信じて。
だけど薬が効いてきた僕の体からは、力が抜けていく。
閉じかけたまぶたの、うっすらとした視界で、譲がほっとしたように笑っていた。
「良かった。汐、ゆっくりおやすみ……」
だめだ。
休んじゃだめ。
フォレストにアオイがいる。
彼女は明石と……繋がってて……
…………
……。
何度も電話をして、美世子(みよこ)さんに伝言をお願いしたけど、叔父が電話をくれることはほとんどなかった。
電話をくれても、仕事が忙しいと、なかなかとりあってはくれなくて。
その叔父が、今面会室に、目の前に来てくれていた。
車で来たんだろうけど、門から特別棟までの道のりがつらかったのか、汗を浮かべた額にハンカチを押し当てている。
「それで聖風を辞めたいというのは? まさか、いじめにでも遭ってるのか?」
それなら学校側に対処をお願いすることもできる、と叔父は差し出されたアイスティーを口にした。
よほど暑いのだろう。
減っていく速さが尋常じゃない。
叔父の出す見当違いの理由に、僕は首を横に振った。
「違う。いじめなんかじゃないよ。でも、僕はここにいちゃいけないんだ。……うまく説明はできないけど、お願い、わかって芳明さん」
無茶なこと言っている自覚はある。
説得できる理由がない。
東原さんが計った夜のことを言えば、もっと簡単に辞めさせてくれるだろうけど。。
事件を知れば、叔父は二度と学校へ行かせてくれなくなるだろう。
口が裂けても言えない
叔父は困ったような表情を浮かべて、言葉を選んでいるようだった。
「汐。秋の終わりになれば、私の仕事も一段落つく。そうしたら二人でどこか、療養もかねて美味いものでも食べに、旅行しよう。良い息抜きになる」
おまえがいちゃいけない場所なんてないんだよ、と気遣うように続く。
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