聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
2
部屋に灯りが点いていた。
僕の肩を掴んでいる譲が見える。
「譲……?」
「わかる? おまえ、部屋入ったところで気を失ってて」
覚えがない。
さっき思いだしていた話は、ただの夢だった?
夢が鮮明すぎて、部屋に帰って来るまで、自分が何をしていたのかよく思いだせない。
片腕に仕上がった洗濯物が入ったバスケットが転がっている。
そうだ。
ランドリー室から、帰ってきたんだった。
ランドリー室には高美くんがいて、雑誌をめくっていて。
フォレストの代表という女性の記事が、あった。
「アオイ……アオイが、フォレストにいる。どうしよう、譲。彼女はいつから……」
手が、勝手に譲のジャージに包まれた腕を握っていた。
譲の手にあるペットボトルが揺れて、小さな水音を立てた。
「青? 何、フォレスト……あ、なんか高美が見てた雑誌の? 汐のお父さんの事業が、って言ってた話に出てたフォレストって、あの会社のことなのか?」
そう、と返す。
ジャージを握りしめた手が震えてくる。
「アオイは毎晩僕を迎えに来てたんだ……。『明石に会いたいでしょう?』って。そのアオイが、フォレストの代表?
……明石とアオイは、フォレストを介しても繋がりがあった!? いつから!?」
思い出すと血の流れが速くなるみたいに、頭がぐらぐらする。
気が高ぶる僕に、譲は動揺しているみたいだったけど、自分で自分を止められなかった。
「汐、落ちついて。何のことかわからない。
アオイって、対談記事に載ってた、森ナントカって人のことか? 森村明石と繋がってるって、何を根拠に」
「お父さまが死んだとき!? お母さまが死んだときは!? アオイがフォレストを動かして、お父さまの事業を失敗に追いこんだの!?」
「そんなわけないよ。そんなこと、簡単にできるわけないだろ!? ……汐、大丈夫。薬飲もう」
台詞の最後のほうは、独り言のようでよく聞こえなかった。
譲はジャージのポケットから分包を取り出して、歯でその端を開けると、ペットボトルの液体に溶かしこんだ。
大声を出したせいで、なんだか頭がはっきりしなかったけど、液体に薬が入ったことは理解できた。
(あれは芳明さんが持っていた薬だ。なんで、譲が持ってるの?)
薬は嫌だ。
体も弛緩するようで、何も考えられなくなるから。
口の開いたペットボトルが、薦められる。
首を横に振って、「嫌だ」と返すけど。
譲に押さえつけられて、口に流し込まれた。
爽やかなはずのスポーツドリンクが、奇妙な苦味を孕んでいて。
喉を通るのに痺れるみたいな感覚があった。
「ごほっ! こふっ、う……」
力の抜けた僕を支えて、譲はベッドまで運んでくれた。
枕にこめかみをつけて初めて、自分が泣いているのに気づいた。
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