聖王の御手のうち(本編+SS/完結)
5
「おまえって、汐をいたわれとか言ったくせに、汐側視点じゃないよな」
「汐ちゃんの味方じゃないわけじゃないよ。
何かに失敗した時、つらければつらいほど、他人の責にしたいものじゃん。フォレスト側はもしかして、潰れた件には無関係で、レースに勝っただけかもしれない。潰れかけた汐ちゃん家に、援助の手を差し伸べただけかもしれない。
そりゃま、ぜーんぶ推測で『かもしれない』話だよ。そう考えれば今のところ、信憑性があるのは、汐ちゃんの叔父さんの話のほうかもね?」
話題をちょっとずらして、汐ちゃんの叔父さんって良い人だった? と続けて聞くと、譲もフォレストと汐の家の事業の話は一旦棚に置いたみたいだった。
別に言い争いたいわけじゃないのは、どっちも同じだ。
「叔父さんからも汐本人からも、『大切な友達でいて欲しい』って頼まれたわ」
わざわざ泣きそうな顔を作って言う分、こっちかは笑いそうになってしまった。
一日かけて電車とバスを乗り継いで。
ようやく始まった“告白への返事”が「友達で」じゃ、疲労感倍増だ。
譲の背中をぽんと叩いて、「お疲れ」としか言えなかった。
夏休暇。
本当のことを言えば、何となく不安になっていた。
告白の返事を聞かせるのに、汐がわざわざ夏休暇を使って実家に招待し、保護者に会わせるなんて。
(それって、大本命路線じゃないかと思ってさ)
真っすぐで、だから単純で。
いつも他人の気持ちがどうなのか気にして、誰かのために自分の時間を費やして。
そんなことを譲は『当たり前だ』と思っている。
他人のために動いた結果、自分が嫌な思いをしたとしても、譲のベースは変わらない。
僕には、とてもできない。
だからもし、汐が譲の思いに応えることがあっても、当然じゃないかと思っていた。
譲には、大切に思われる価値があるから――。
「へーえ、ふうん、そっか。やっぱ、汐ちゃんには振られたんだ♪」
笑い声を洩らすと、譲は僕の肘を小突いてきた。
そんなに強くない。
「てめ、面白いと思ってんだろ。嬉しそうに言いやがって」
うん、と軽く頷く。
「嬉しいよ。僕、譲が好きだからさ。汐ちゃんにさらわれずに済んで、かなり嬉しい」
譲は呆れ顔のまま止まった。
「…………。
は? ……え……?」
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