聖王の御手のうち(本編+SS/完結) 1 毛足の長い絨毯に、細くて頼りない肢体が這いつくばっている。 小刻みに拍子をとる荒い息に混じったか細い声が、時折俺の名前を呼ぶのが聞こえる。 その身体に他人の肉を受け入れるのは、何人めだっけ? 初めての今日だけでも、もう片手の指の数は越えるよね? 育ちきっていない細い脚を開かれて、誰にも見せたことのない最奥を晒されて。 君はぼろぼろと涙を零して、悲鳴とも呼吸音ともつかない音を、唇に乗せている。 暗がりに筋肉を浮かび上がらせる男は、君の折れそうな腰を抱えて高ぶりを飲み込ませている。 瞬間、大きな目を見開いて、気管を広げて君は言う。 「助けて……あか……もう、やめさせ……て……」 俺は君の手のひらに靴先をねじ込んで、鋭い悲鳴を味わってから、ぐしょぐしょに泣き濡れた顔を覗きこんだ。 「良い子だから、もう少しそうしてて?」 だって俺は、我慢できないんだ。 そうして涙で濡れた頬を赤く染めて。 虚ろな視線を不安げにさまよわせて、その癖、俺には合わすまいと逃げていく。 唾液をこぼす唇が、かさかさに渇いた声で、切れ切れに俺の名前を上らせると、背筋をぞくりとさせる何かが走りぬけていく。 その感覚を味わうためには、君でなきゃいけない。 見開いていた目が次第に力を失って、長いまつげが影を落としていく。 焦点を失いつつあるというのに、君は渇いた唇で俺の名前を呼ぶ。 助けて、とくり返し訴えた後に。 ああ、君はどうしてそんなに可愛いのかな。 初めて会った時も、君は泣いていたっけ。 豪奢な庭。 薔薇の薫る月夜に、あめ玉みたいな目からぽろぽろと涙粒をこぼして。 黒いまつげの先にたまった小さな涙が、きらきらと月光に輝いていた。 君は俺の影に気づいて、大きくて黒いうさぎのぬいぐるみを腕に抱いたまま、寝間着姿の肩を震わせた。 「だれ……」 姿かたちだけじゃなく、声までも可愛い完璧な君に、俺は魂までも吸い込まれてしまったのだ。 [戻る] |