きらきら(本編/一旦完結) 3 俺はポンタじゃないっつの。 そいつはあんなに探し回ったのに見つからなかった、ぬいぐるみポンタ誘拐犯だった。 (なんで家にいるっ!?) ハル兄から離れて、「成海です」と挨拶するも、敵は酔いが入っているらしく、名乗りもせずに俺の肩を抱きしめた。 「ちっちゃいなぁ、仁科弟〜。制服もいい〜」 (なんか、酒くせーし、餃子くせー!!) 一刻も早く、タバコ臭くもある腕から逃れたいが、こいつはハル兄が家を紹介するほど親しい(のであろう)同僚なんである。 ハル兄が見ている前で、むげにはできない。 「2人とも、気が合いそうで良かったよ」 根から善人で天然なハル兄は、のんびりにこにこしながら、そんなことを言う。 (どこがじゃ!!) ハル兄の手前、苦しい笑顔は浮かべているけど。 くさい。 そろそろ、限界だ。 も、いい加減離せ… (――っ!?) 指が、当たる。 こいつの指。 抱きしめる右手が、尻を包んでいて、その中指の先が。 ぐりっ、と動く。 (ちょ…なんでっ…) 慌てて、髭男の胸を突いて、手から離れた。 きょとんとした顔の、ハル兄とそいつ。 「成海?」 「あ…、力強くて…息できなかったから」 ハル兄はそいつに「もう山岸(やまぎし)、成海を手荒にしないでよ」と諫めた。 山岸、という名前らしい。 そいつはハル兄に謝りながら、ハル兄の肩や腕に触れる。 (ただ、スキンシップが過剰なだけ、な人?) 俺が気にしすぎなのかもしれない。 最近やたら俺に触ってくる奴――タクとか、タクとか、タクとか!――と、ばっかり会っているから。 「玄関で騒いでないで、キッチンに入ったら? 晴一はもう出るの? 成海はごはん食べるの?」 ババアがのれんから顔を出してそう言うと、ハル兄は時計を見て、「帰るよ」と俺に笑いかけた。 上着をはおって、革靴を履く。 ハル兄は俺に、「山岸と仲良くしてやってね」と言って、出て行った。 笑顔でうん、と返したものの。 「ポンタくんも早く食べにおいでよ、美味しいよ〜♪」 だから、俺はポンタじゃないっつの!! 初日からすでに、早く巣に帰れと願う俺だった。 「お兄さんの同僚? ナル、お兄さんいたっけ? で、なんでナルん家に? いくら都市部じゃなくたって、ビジネスホテルくらいあるだろ?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |