きらきら(本編/一旦完結) 3 ちょうど廊下からも、寺島の「井上、まだぁ〜?」という間延びした声が聞こえてきていて。 井上は「じゃあな」と意味深な笑みを浮かべてから、教室を出て行った。 廊下を去っていくデカヤンたちの影が、ガラス窓に映っている。 ――いつも不安なんだろうね。 「ちくしょ…」 そんなことねえよ! 〔To:タク Sub: 今、どこ?〕 「……」 送信キーを押すか、いつも迷う問いかけ。 別に大した質問じゃないだろ? と、思いながら。 「っと! 大丈夫ですか!?」 スミマセン、と謝ってくるのは星城学園の制服を着た高校生だった。 上品なグレーの学ランは、良家のぼんぼんの証拠だ。 手に本を積み重ねすぎて、前の席にすわっていた俺が認識できていなかったらしい。 図書館。 日本史教科担・川崎に言い渡されて、プリント5枚埋めるのに、「行って来い!」と怒られた末の漂流地だ。 「あ…」 彼にぶつかられた一瞬、メール送信してしまった。 …まぁ、いいか。 どうせ、大したメールじゃない。 「誤作動、させてしまいました?」 大量の本を持ったまま、彼が俺の手元をのぞきこんだ。 携帯と、日本史プリント。 彼は大量の本を、俺の席の隣に置いて、いすにすわった。 「え? あの」 「お詫びに手伝います。課題。こう見えて、日本史強いんで」 にこっと笑う彼の向こうに積んである本は、なるほど歴史ものばかりだった。 趣味でそんな本読むヤツがいるなんて、信じられないけど。 「じゃあ、お言葉に甘えて、頼もうかな。 俺、西高の二年、仁科成海」 「星城学園一年の緑川渉(みどりかわ わたる)です」 よろしく、と言い合って。 俺は緑川の教授に従って、日本史プリントを埋めて行った。 結局、プリントは閉館時間までかかってしまった。 閉館の音楽とともに、いすにすわったまま体を伸ばしていると、緑川が笑った。 「そんなに疲れますか、日本史」 「うん、すげー疲れた。緑川のおかげで助かったよ。1人じゃぜってー無理だった」 そんなことありませんよ、と緑川はおかしそうに笑った。 「な、この後ヒマ? お礼にファミレスで何かおごるよ」 「良いんですか? 俺のほうがお詫びだったのに」 [*前へ][次へ#] [戻る] |