きらきら(本編/一旦完結) 9 痛みにも似た感覚が、唇の触れた場所からじわりと広がっていくみたいだ。 痛い。 熱い。 (タク) 助けて。 そんなことを思いそうになって、打ち消した。 タクが触るのも拒否っている俺に、助けを求める権利なんかない。 それより、無事だろうか。 いや、あのタクが、いくら俺という人質があるからって、素直にボコられてるわけはないだろうけどさ。 タクがしてきた時も、大暴れして抵抗したけど。 河本のとタクのとじゃ、全然違う。 気持ち悪い。 嫌だ。 河本が触れたところから、切り取って捨てたくなるほどに。 熱い舌で触れられたところが、寒気で凍る。 このまま、感覚がなくなれば良いのに。 「…あんたらの言うルールって…誰のためのもんなんだよ?」 河本が舌を這わせたまま、視線を上げてくる。 「どこのルールも同じなんだろうけどさ。ルールは元々、その世界に生きる人間のためにあるんだろ? 下克上が起こった時点で、既存のルールは人間に超えられてんじゃねぇの。 …すでに人間より低レベルに堕ちたルールを死守するなんて、センス悪いんじゃね?」 一瞬、河本の動きが止まったように見えた。 その瞬間、耳をつんざく轟音と共に、安アパートのドアが、激しく蹴り上げられた。 ノブ側じゃなくて、蝶番の側から裂けたドアが、コンクリートの地面に、ただの板切れとなって落ちた。 板の塵と砂埃が、もうもうと立ちのぼる。 その板切れを踏みしめて入ってくるのは、白い制服を血と泥で汚しまくったタクだった。 髪は乱れ、制服の袖も破れた状態で。 右手に、藤田先輩の襟元を握っている。 ぴくりとも動かない藤田は失神でもしているんだろうか。 空いた左手には、どこから調達したのか木刀が握られている。 似たような出で立ちで従うのは、デカヤン野田と、空き教室で失神してたはずの井上、そして寺島。 顔まで泥と血でまみれているタクの目が、まっすぐ俺を見た。 見る見るうちに、つり上がる目つきは、これまで俺が見たことのないような気迫を持っていた。 「タ、タク…っ!?」 物凄い形相で、土足のまま部屋に上がると、後ずさった河本に向かって、藤田の巨体を投げつけた。 「…河本ぉっ…!!」 タクの形相と怒りで掠れた声色に、一瞬怯んだ河本。 その顎に、タクのストレートな一撃が決まる。 「汚らしい手で、俺のナルに触るんじゃねぇ!! 寺島、出刃出してこい!!」 「タク!」 包丁って、いくら何でもやりすぎだろう!! ベッドの足から離れたくても、くくりつけられている荷造り紐が、一向に伸びてもくれなくて。 [*前へ][次へ#] [戻る] |