きらきら(本編/一旦完結) 6 なんでそんな面倒くさいこと、と思ってから、また顔が赤くなってしまって。 冷えた手のひらで頬を擦った。 「別に凝ったもの作ったわけじゃなかったんだけど、出すのにちょっと手間取っちゃって。制服着替える暇なかったから、そのまま行ったんだ」 「出す? 何を?」 ふっふ、と変な笑いを浮かべたタクは、リビングの端にある一式を指さした。 ふわふわのふとんと、立てかけてある卓。 それをセットして、ようやく炬燵であることがわかった。 「おおお! すげえ! こたつ!!」 さっそく布団の中に足を突っ込んで、タクがスイッチを入れてくれる。 じわりと温まってくる布団の中で、冷たくなっていた足に血が回っていく感覚があった。 「すごい! 良いじゃん、炬燵! 気持ちいい! 俺、今日からここで寝るし!」 「そこまで喜んでもらえると、出した甲斐があったってものだけど」 ここで寝るのはダメ、と後半ぶすっとふくれて踵を返して行った。 ? なんか変なこと言ったか? キッチンに立つタクがエプロンをつけて、冷蔵庫を漁りながら「ナル、お風呂入っておいで」という言葉に甘えて。 まだ六時前なのに、贅沢に湯に浸かって。 パジャマでリビングに出てきたら、先刻の素敵炬燵の上に、鍋がセットされていてまたテンションが上がってしまった。 「うわぁ! 鍋! なんか冬っぽい!」 「もう冬ってことで良いんじゃない?」 タクが暦を無視して、ざっくりいい放つ。 薬味を二人分の器に配分していると、タクも風呂に入って行って。 上がってきてから、鍋スタートってことになった。 「お互い受験、お疲れ様でした」 ぽよん、と変な音が鳴って、缶チューハイを合わせる。 一缶だけ、というタクルールで特別に飲ませてもらえる一缶だ。 ごくごく喉に下してから、ふと止まる。 「『お互い』?」 「うん、お互い。俺は昨日、ナルは今日終わっただろ?」 俺が今日受験終わったのはそうだけど。 タクの受験って? きょとんとした顔でタクを見返していると、「やだなぁ」と呆れたように苦笑する。 「昨日の朝、玄関で会った時に言っただろ。『入試行ってくる』って」 「あ。モリアーティ教授の恰好してた……」 っと。 それは俺の、寝不足による幻覚で、タクはまともに制服着て出かけて行ったんだっけ? てか、あの玄関で会った話、夢じゃなかったのか。 そろそろと豆腐を掬い取りながら、そんなことを思っていると、タクが「よくわかったね」と意味不明な相槌を打ってきた。 「は? 何、よくわかったね、って……」 「モリアーティ教授に見えた? 良かった」 「…………」 は? やっぱりモリアーティ教授の恰好してたのか? え? 現実に? 俺の夢じゃなく!? [*前へ][次へ#] [戻る] |