きらきら(本編/一旦完結)
7
顔に熱が上がる。
目を上げたら、絶対また視線が合う。
タクだけは平然として、俺だけが慌ててふためいて。
「帰」
「わかった、トイレだろ。ったく、お子様だな、おまえは。カフェは諦めてやるよ」
それでものろのろと動きの遅い要をせき立てて、俺はようやく広間を脱出したのだった。
ふかふかの絨毯を踏みながら、要はあっさり「ロビーで待ってろ」と言った。
「えっ、ロビーで!?」
一刻も早くランサホテルを出たいのに。
なんで!? と噛みつく俺に、要は「外の駐車場に車止めてるから」と返してきた。
「いーよ、そんなら。俺、電車で帰るし。元々そうやって芝崎まで来たんだし」
「未成年の身内を1人だとわかってて返すわけにはいかんだろ。待ってろ。駐車場出たら、電話するから」
ロビーに着くなり、肩を押さえられて、ソファにぼすんと落ちた。
どこもかしこもふわふわ仕様のランサホテルソファは、たやすく腰を沈みこませた。
シャンデリアを背景に「ジュース頼んどいたから。おとなしくしとけよ」とだけ言って、要は出て行ってしまった。
(どーすんだ、これ…)
こんな所にいて、見つかったらどうする!
のん気にジュースなんか飲んでる場合か。
(とにかく、電車でなんとか)
借り物のスーツのポケットをまさぐる。
何もない。
いや、あるにはあるけど、財布が。
(財布…)
そうだ。
ジーンズの尻ポケット。
ホテルに入る前、ロッカーに全部入れてきた。
カギは要だ。
(…バカ?)
絶体絶命。
1人で帰れない。
どんだけマヌケなんだよ。
「お待たせ致しました」
ウェイターの声に、飛び上がりそうになった。
ランサのロゴが入ったコースターをそっと敷いた上に、スリムなグラスが置かれる。
中身はオレンジジュースだ。
(豪華ディナーの後に、なんでオレンジジュースなんか飲まされてんだ、俺は。子どもか)
心中毒づきながら、赤いストローからごくごく吸い上げて飲み下す。
さっきまで口の中を支配していたコーヒーの苦味が一気に押し流されて行った。
結局のところ、ここは要に送ってもらうしかない。
ここで、おとなしく帰りを待つしか――
「探したよ。ナル」
「――!!」
ぽん、と肩を叩いてきた手の主が誰か。
無論、振り向かなくてもわかった。
最悪だ。
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