きらきら(本編/一旦完結) 6 タクの家に乗り込んできた時の形相が嘘みたいに落ちついている。 どっちかと言えば、タクの家で見たハル兄こそが嘘だったみたいに思えるんだけど。 俺が今、実家に連れてかえってこられているという事実が、現実である証だ。 天井で白く浮いて見える明かりを見ながら、「なぁ」とハル兄に呼びかけた。 「さっきも聞いたけど、兄ちゃんの家って会社の寮じゃねえの?」 「いや、年明けに外へ部屋を借りた。新人が決まって、寮が飽和状態になったから住宅手当が出たんだ」 本に視線を落としたまま、初耳な話をさらっと言う。 それなら引越の手伝いもしたかったし、遊びにも行きたかったのに。 他人行儀だ、と俺は心の中で憮然とふくれた。 「兄ちゃん、1人暮らしなんだ。良いなぁ、社会人は」 俺なんかタクと暮らす二人暮しでも、金の工面で大変だったのにとあの時の顛末を思い出した。 あの時はババアが味方になってくれて、最大限の譲歩をくれたんだっけ。 「なんで、1人暮らしって……?」 「え?」 俺が過去を思い出してうとうとしかけていたのとは反対に、ハル兄が妙に緊張した声を出すから。 なんとなくハル兄を見返った。 「なんで1人暮らしかって聞いた……?」 「え? 聞いたわけじゃないけど。誰かと一緒なの?」 賃貸料折半なら経済的に少しは楽だ。 同居人とうまくやっているなら、申し分ない。 でも、同居人がいるなら、春休みに俺が転がり込むのってもっと変じゃん。 「いや……俺1人だ。だから気兼ねなく、来ると良い」 なんだか歯切れの良くない返事に、ますます疑問が浮かぶ。 「なぁ。なんで春休みに、俺がハル兄の家に行く必要があんの? だいたい行ったって兄ちゃん、仕事で。 ハル兄だって、見ただろ? タクが怪我してるの。一ヵ月後にはピアノの試験もあるんだし、タクには俺がいなきゃだめなんだって!」 「成海、もう寝なさい。明日は学校だろう」 ぱたん、と本を閉じる軽い音がして、ハル兄は横になった。 「兄ちゃん! 話の途中だろ!」 その後は何度呼びかけても、ハル兄は返事をしてくれなかった。 「昨日は実家で、ゆっくりできた?」 「……」 晩一緒にいなかっただけだ。 毎朝、自分が脱走していた時期だってあった(や、それは自業自得だったんだけど)。 それに比べたら一晩いなかっただけなんて、ごく短い時間なのに。 (なんか、新鮮。タクっていっつも、こんな髪ちゃんとしてたっけ) さらさら。 などと、実質問題山積みで、見とれて惚けている暇なぞないわけで、ため息をつく。 学校を出たら、このままハル兄の家に直行という予定だ。 終業式の日に、でっかいスポーツバッグを持って登校している生徒は俺ぐらいのもんである。 [*前へ][次へ#] [戻る] |