きらきら(本編/一旦完結)
3
要は嫌そうに苦虫を潰した。
「もうちょっと可愛く言ってくんないか? 彼女の代理なんだからさ」
「できねー」
可愛くできてりゃ、最初からこんなところにいるわけないんだし。
「まあ、男に可愛さを求めるなんて不毛なことした俺が悪かったよ。
行きたいところってのは、ランサホテルのディナーなんだ」
ちょうど良いだろ、腹減ってんなら、と続く。
(ちょうど良い)
テンションが上がった。
ランサホテルといえば、俺でも名前くらいは知っている一流ホテルだ。
タクがそんな一流ホテルにいるかどうかは判断つかないけど、1人ではとうてい入りこめない。
「しかしおまえさ、芝崎に来るのにTシャツにGパンはないだろうよ。
ホテルに入ることもできやしねぇ」
差し出されたスーツカバーをめくって見ると、要のスーツが一式入っていた。
公衆トイレで着がえろということらしい。
(ほぇ〜……)
大理石の床。
アイボリーにほんのりピンクがかったラインがうっすらとしたグラデーションを作り出している。
天井から輝きを放っているシャンデリアが、磨きぬかれた床に光を反射させていた。
ぴんと糊の利いたテーブルクロスは白。
形をどう形容して良いかわからない変わった形をした一輪挿しに、薄いピンク色をした薔薇が咲いている。
ひょっとして造花じゃないか、と思うほどの形良さだ。
(どこもかしこも、きらっきらだ〜……。この一輪挿し持って帰ったらダメかなぁ……)
さすがは芝崎が誇る随一のホテル・ランサ。
嫌でも視界に飛び込んでくるのは、テーブル群の中心だ。
広間あるテーブルは全部で10前後。
テーブル群の中心には、小ぶりのステージが設置されていて、黒々と輝くグランドピアノが鎮座している。
ちら、と要を見た。
ピアニストである要の目的はこれか、と思い至った。
(なんか、その道のユーメージンでも出てくるんだろか……)
誰が出てきても、俺みたいな素人にはわかんねぇんだろうけど。
ぱらぱらと、ドレスアップした客たちが広間の大理石にかかとを落として、それぞれの席についていく。
多くは年配層の男女だ。
夫婦だろうか。
上品な、落ち着いた色合いの(それでいて高価そうな!)服を着ていて、きらきらの広間にも遜色がない。
男2人で向かい合って席についているのなんか、俺らぐらいだ。
ぶっちゃけ、すっげー浮いてる。
薔薇の一輪挿しの向こう側にいる要は、期待を持った目つきをして、ステージのピアノの熱いまなざしを送っている。
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