きらきら(本編/一旦完結) 1 「俺、ほら。右手使えないから。左手だけじゃ、どうしても無理があるだろう?」 ええ、そうでしたね! だから? 「髪、洗って?」 「…………」 傷口は濡らしてはいけない。 ゆえにぐるぐる包帯の上からサイズの大きな軍手をさせて、ビニールをかぶせて風呂に入る。 どうしても両手を使う洗髪は俺が手伝うことにしているんだけど、あれから1ヶ月。 好転しているけが人は、どうも何かをしないではいられないらしく。 「…やっ、タク…いーかげんに…」 "利き手じゃない左手"が滑ったタクはシャワーを水圧で躍らせ、風呂中に噴射したシャワー水はもちろんTシャツに短パン姿の俺をも全身びしょぬれに仕上げてくれた。 それを上から、裾から侵入してくるのは、シャワーグリップも取り落としてしまう"利き手じゃない左手"なわけで。 「もう、ナルも脱いだら?」 囁きながら、濡れた衣服を脱がしにかかる頃には、俺のほうが力が入らなくなっていて、"洗髪"はちっとも進まない。 水を含んで肌にはりついたシャツを、器用に脱がしていく左手は、どう見ても"利き手じゃない左手"なんかじゃない。 だいたい右手と同じように鍵盤の上を走り回る左手に、利き手とかそうじゃないとか関係あるのか!? 「ちょ、ストップ…タク、携帯鳴ってない? タクの」 「携帯?」 憮然とした顔をそのままに、頷く俺の前で動きを止めて耳を澄ませる。 シャワーヘッドもバスタブにもぐらせると、確かにタクの携帯着信が聞こえる。 うん、と小さく頷いてから、タクは左手で濡れたシャツの胸元を引き上げた。 「タ…」 「いい。用があったらまたかけてくるって」 シャツの上から散々いたぶられた胸の飾りは、赤く色づいていて。 そこにタクの舌がざらりと触れるのが、暖色系の明かりに浮かび上がって見えた。 指で触れられたあとの舌の肌触りは、快感というよりも痛みに近い。 何度も何度も爪先で引っかけられて、どこか小さな傷ができているに違いない。 敏感になった尖りに、熱を持った赤い舌は刺激が強すぎる。 そんなことより、 (まだ鳴ってるんだけど、タクの携帯) タクの舌の感覚を追うのに忙しいんだけど、音が気になって仕方ない。 ちらちらと部屋のほうへ投げる視線が気にいらないのか、タクがイライラしはじめているのもわかる。 つか、タクの携帯なんだけどあれ!! 気になるんなら、出てって止めろよ!! 微妙な空気の中、とどめを刺したのはインターホンだった。 それも、携帯と同じく何度も何度も執拗に続く。 俺はタクの、"利き手じゃない左手"の手首を掴んだ。 「〜〜! もう諦めろ! 気になって絶対無理だって!」 「気になる? ちゃんと反応してるくせに?」 自由になる唯一の手を取られたまま、タクは舌で俺の内腿を撫でた。 短パンの中は、悔しいがタクの言うとおりだ。 高められた熱を中途半端に終わらせるのは、正直キツイけど、このインターホンの音で知らん顔で続ける集中力もない。 「直接触るから、手離して」 [次へ#] [戻る] |