きらきら(本編/一旦完結) 7 そこに飛びこんで行ったのが、理性では制御不能の俺で。 気づけば豚まんの脳天にかさを横向に叩きこんでいた。 (やば☆) 分厚い脂肪が脳内伝達を邪魔するのか、豚まんが反応を示したのは、俺が2打目を振り上げてからだった。 「っんだ、このチビっ…!」 「うっさい、この豚まん野郎! さっさとその象の足のけやがれ!!」 視界の隅で、タクたち西高白ブレザーが動いた気がしたけど、視点になっていたのは豚まんしかなかった。 豚まんは一度井上の手に体重をかけてから足を上げて、次に着地した時には俺の胸倉を掴みあげていた。 「っ…」 声がかすれた。 踵が浮いて、爪先立ちになってしまっていた。 息が上がる。 頭によぎったのは、寺島のセリフだ。 ──っと人質になって、西高に不利な状況に…… (その通り、なんてことにさせるか!!) 象の足から解放されたはずの井上は、他の花紺に捕まって身動きが取れない。 だらりと力なく下がる右腕が気になる。 野田と寺島が花紺の相手をしながら、視線を寄越して機会をうかがっているのがわかった。 手に握りしめていた傘を振り回すも、喉元を締め上げられて、力が抜けていく。 「井上だけで良かったのに、嵯峨や河本までしゃしゃり出てくるんだもんなぁ。痛い目見るのは仕方ない。諦めな?」 「いのうえにっ…何の恨みが…」 恨み? と繰り返して、俺の喉元にある両手に力を入れた。 「恨みつらみなら言い尽くせないほど、俺らのシマで暴れまくってくれたよなぁ?」 豚まんが振り返るそこに、後ろから羽交い締めにされた井上が、右の指を逆向きに曲げられていた。 (折る気か!?) 井上の指を握るヤツがちらと豚まんをうかがう。 井上の命運は豚まんしだいってことか。 だったら尚更、俺なんかがぶら下げられているわけには行かないんであって。 手にした傘をめちゃくちゃに振り回した。 1、2発くらい当たったはずだけど、体格差はどうしようもない。 「井上を離せ!! この豚ま…っ!!」 河本先輩なんか、高みの見物を決めこんでいるに違いない。 手が空いてるなら手伝えよ、と恨みがましいセリフが浮かんだりするけど。 元々ここへ案内させたことも、俺の身勝手からだ。 ぎりっと力の加わった喉元ごしに、豚まんを睨みつける。 不気味な笑顔を浮かべる豚まんの向こうに、井上の指が見える。 「暴れたおした挙げ句に、のんきに絵なんか描いて、まともなフリして生きるってか? 一度踏み外した道に戻ろうってのは、並大抵じゃないだろう?」 だったら、これもその1つだってことさ。 そう言いきる前に、豚まんが喋る口を止めた。 何かが飛んできて、豚まんの顔に当たって落ちたのだ。 こつんと儚い音を立てて落ちたものの存在に気づいたのは、豚まんの顔に、当たった痕ができたからだ。 血の、痕が。 「な…に…」 [*前へ][次へ#] [戻る] |