きらきら(本編/一旦完結) 10 (行くところって、いったいどこなんだよ? 毎日毎日) さらっと聞けば良いだけだ。 なのに、なんでか言葉が出ない。 そもそも。 (タクが俺を…そーゆー意味で好きとか…) 本当なんだろうか。 久々に再会した幼なじみをからかってるだけ、とかさ。 「それじゃあ、ナル。俺、これで帰るね」 キッチンの席を立ちながら、タクはババアに向かって丁寧に挨拶をした。 ババアもにこやかに対応する。 「……」 キッチンを出て行く2人の背中を見送って、アイスティーを口にしながら、空いた指がテーブルをリズミカルに叩く。 貧乏ゆすりの指版みたいなものだろうか。 玄関の戸が閉まった。 「タク…!」 アイスティーを置いて、席を立った。 びっくり顔のババアの横を通りすぎて、スリッパを履くと、玄関ドアを開けた。 門扉を開いて、家の前の道を左右視線を走らせると、右側にタクの背中が見えた。 「タク!」 蝉の声と立木の濃い緑の中、タクはやっぱり汗一つかかないで、涼しげな顔をして立ち止まった。 スリッパなんか、やめとけば良かった。 ちゃんとスニーカーかなんかじゃないと、スムーズに走れない。 タクに、追いつかないじゃないか。 目の前まで追いついたタクの腕をとって、視界に入ったタクの荷物を見た。 濃いグレーのスーツカバー。 それにA4サイズの黒い鞄。 (いつか、西田が言ってたのと、同じだ) 「ナル、どうしたの? もっと俺といたいとか?」 でもごめんね、と続く。 「俺、これから行くところがあるから」 「どっ… …」 「え?」 どこなんだよ。 行くところって。 いつも時計ばっかり、気にしてさ。 「……」 「ナル?」 「なっ…何もねえよ。じゃあな」 往生際が悪い。 何もねえことねえよ。 気になって仕方ない。 幼稚園の時の、きらきらビー玉目でもないのに、俺は―― 嵯峨拓人が気になってしょうがない。 「どこに行くのか、知りたい?」 「――!?」 タクが笑みを浮かべたまま、髪をかきあげると、耳元で何か光った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |