きらきら(本編/一旦完結) 7 「仁科だって、気になってるんだろ? 俺が今朝見た光景を嵯峨に言ったか、言わないか」 言ってない。 ぜってぇ、言ってない。 言ってたら今更、俺を引っ張って行かないだろ。 重い音を立てて屋上への扉が開いた。 途端に冷たい空気が、足下を掬うように通りすぎていく。 「さっむ! ホントに屋上に出るのか!? 正気かよ、このクソ寒いのに!」 「別に空き教室でも良いぜ? 嵯峨さんと仁科がヤってた、あの教室なら寒くないかもな」 「……屋上でいい。さっさと話せよな」 ムカつく。 なんで授業サボってまで、こんな… …こんな、自分が悪いんだけどさ…。 震えている俺の目の前に、井上はパカッと携帯を開いて見せた。 「行ってらっしゃい〜」という、沖さんと俺が映った脳天気な動画。 別に意味なんてない。 なんてことのない日常風景だ。 でも、タクの目に触れれば、また酷いことになる。 いっそ、自分から暴露して説明するか? 「これを嵯峨に見せられたくなかったら、朝の家出は俺のところに来い。要するにこれは脅しだし、嵯峨には無論言ってない。 くだらない材料だけど、俺には切り札だから?」 「切り札? ……」 何の、と言いかけた瞬間、井上に抱きすくめられた。 (タバコくさい…) 肩を抱く腕に力が入る。 「言っただろう。隙があったら、つけこむって」 …正気か? 本気で言ってんのか? どうせ、いつもの調子で笑うんだろ? 深呼吸したくて吸いこんだ空気に、井上のタバコ臭が混じっていてむせそうになった。 「大丈夫か、仁科? 水か何か買ってくるか」 「いや、大じょ…ぶ。冷たい空気が気管に入っただけだから。 それより、井上。タクに見せるなら見せろよ、その動画。沖さんの」 井上は俺の両肩に手を置いて、ぎこちなく笑った。 「…何? どういうこと?」 「タクに話す。全部」 「へぇ? 俺に匿われるより、ピアノ部屋に繋がれるほうがマシってわけ?」 井上が皮肉混じりの笑みを浮かべて、メガネを押し上げるのを黙って見ていた。 俺なんか相手に、余裕のない表情を浮かべて。 「井上のことは好きだけど、タクを思うくらいにはならない」 井上が真面目に言っている。 だから俺も真摯に答えるんだ。 そんなことを考えて言い切ったあとに、井上はぷっと笑いを噴いた。 「なっ? なんで笑う!? ヒトが真面目に…」 「そんなこと、前から知ってるんだけど」 う。 何回も言ってるっけ。 「でも、何度もつけこんでれば、仁科の気が変わる時もくるかもしれないし?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |