きらきら(本編/一旦完結) 1 コンクールのあった翌週末。 帰る、という俺に、タクはぐずぐず言わなかった。 「入賞できなかったんだから、仕方ないね」 あっさりしすぎなんじゃないかと言いたくなるぐらい、潔い。 ちょっとは追いかけたりしてくれれば、こっちもぐずぐず言いやすいんだけどなー…なんて、思ったりもしながら。 俺は着替え群と共に、タクのゴージャスマンションを後にした。 空は綺麗な青空で、息を吐くと空気が白くなる。 思えば、要がくれていた生活費ももう終わりなんだし。 タクとの暮らしの終止符は、この辺りが妥当なんじゃないかという気もする。 (それにしても、濃い日々だった) うん、まぁ、色んな意味で。 タクが正真正銘、嵯峨さんの子供だったとか。 それをあの晩、嵯峨さん本人がタクに告げに来たこととか。 更にそれをフライングさせて、真理奈さんに語らせたのが、どうも酔った俺であるらしいとか。 (うっわ、全然覚えてない) すべてがはっきりした朝、タクは嵯峨さんと話しながら笑っていた。 なんだか、2人でいるのが幸せそうで。 (…タクは、あのマンションを出て、嵯峨さんの家に帰るかもしれないな) 家族で暮らしている俺をいつも羨ましがっていたタクに、ちゃんとした家族がいたことがわかったんだから。 俺はもっと、喜んで良いはずなんだけど。 「なんか、しっくり来ないって言うかさ」 「…。なんかあるたびに俺んちに来るの、止めてくんない?」 西田が眉間にしわを寄せる隣に、今日は高橋がすわっている。 「それって、独占欲? あたしもよく考えることあるわ!」 この話のどこにツボったのか、高橋がずいと身を寄せて、熱く語りだした。 「亨くんを部屋に閉じこめて1人っきりにして。あたしはその鍵穴から、ずっと亨くんを覗くの! もちろん1人でよ!?」 素敵! と続く高橋の妄想に「そうか?」と疑問符を飛ばす。 いや、西田がそれで良いんなら、俺は関係ないし、良いんだけどさ。 高橋みたいに思うことはないけど…いや、タクが1人の時に何やってんのか、とかは気になるけど…置いといて。 「とにかく。いつものことだけど、気になるんなら嵯峨本人に、帰るかどうか、聞いてはっきりさせてから悩めよ」 とりあえず一旦帰ったら? と俺の荷物を指す。 [次へ#] [戻る] |