きらきら(本編/一旦完結)
2
タクがバイトしてるとこって、なんかイメージ湧かないけどさ。
腰に回ったタクの腕をはずそうと手をかけた。
片手がはずれる。
だらんとした手指がまた、無抵抗で。
もう片腕に手をかけて、逆に手を取られた。
「タクっ……?」
「寝てると思った? ベッドに入り込んだのに、俺がおとなしく寝てるほうが変じゃない?」
いつものくすくす笑い。
おとなしくしてるほうが変!?
そんなの知るか!!
「〜〜〜〜! そんな想像しなかったし!」
「そんな想像? どんな? まぁ、ナルは童貞だし、想像って言ってもたかが知れてると思うけど」
「決めつけんな!!」
タクの顔面に枕をぼふっと命中させて。
あわあわしている間に、俺はベッドを降りた。
振りむくと、余裕の顔で乱れた髪を直している。
目が合うとにこっと笑みを浮かべる。
「おはよう、ナル。もう昼過ぎだけど」
ちくしょう。
笑顔だけなら、あっさりと幼稚園児だったころのタクが浮かぶのだ。
「なんで、うちにいんだよ」
パジャマを脱ぎ捨てると同時に、引出から引っ張り出したTシャツを頭からかぶる。
襟元から顔を出すし、まだベッドであぐらをかくタクをじろりと睨みつけた。
「どうしてって。海晴(みはる)さんが入れてくれたから?」
海晴さん、て。
「人の母親、勝手にファーストネームで呼ぶんじゃねぇよ」
タクは笑う。
「『おばさん』って言うには綺麗だし、何て呼んだらいいか聞いたら『海晴で』って、海晴さんが」
イイ年して何考えてんだ、あのババアは。
タクは俺のため息なぞ気にもしていない様子で、耳元に触れながら、
「大丈夫。ちゃんとエメラルドのピアスは、海晴さんには見られないようにしたから」
などと言う。
何のこっちゃ。
なんでピアス一つ、ババアの目をはばかる理由があるっつーんだ。
「だって、ナル。このピアス、いや元はリングのエメラルドって、多分海晴さんのだったんでしょ?」
「――――!!」
「図星。やっぱりそうだったんだ。今も昔も単純で可愛いよね、ナルは」
「うるさい! 帰れ! 何しにきやがった、てめえは」
「何しにって」
タクはベッドから下りて、俺に近づいてくる。
シャツを着替え終わった俺の手を取って、指先に軽く口づけた。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!