きらきら(本編/一旦完結) 1 何の話でそうなったのか、よく覚えていない。 「けっこんていうのは、ゆびわがないとできないんだよ?」 タクが、ビーだまみたいな目をきらきら光らせて言う。 俺は女の子みたいにかわいい顔立ちをしたタクと、タクのビーだまの目と。 とにかく、きらきらしたものにめっぽう弱かった。 多少興奮気味に、幼稚園スモックのポケットに手を突っこんで、それをにぎりしめると、グーのままの手をタクの前に差しだした。 「ないしょだぞ。今、おれの一番すっげーやつだからな!」 ゆっくりと、こっそりと。 グーの手を開いた指のすきまから、中身をのぞいたタクが、小さく「あっ」とこぼした。 あわててまたグーに戻す。 さくらんぼ色の唇を手のひらでおさえて、「ないしょだって、言っただろ」と、早口で言う。 タクは泣きだしそうに目をうるませて、「ごめん」と返した。 「ナル。このゆびわ、どうしたの?」 俺はタクの質問には答えず、ぷにぷにの白い手に、指輪をにぎらせた。 「けっこんて、ずっと一緒にいるやくそくなんだよな?」 聞くと、タクが妙に真剣な顔をして、「うん」と言う。 「ゆびわがあったら、けっこんできるんだよな?」 またタクは「うん」と言う。 俺は「ふん」と鼻息をふいてから、 「だったらそれ、だいじにしまっとけよ!」 としめた。 タクはきらきらのビー玉目をにこっと細めて、「うん」と笑った。 (か、かわいい…っ) それだけで、俺はどきどきして。 幸せで。 それなのに、そんなタクとずっと一緒にいる約束までできてしまった。 本当のところ、走りだしたくなるくらい、嬉しかった。 グラウンドに走りだして「わぁー!」とか「やぁー!」とか、意味不明な叫び声をあげてやりたかった。 それから一週間もしないで、タクはいなくなった。 町を出たのだ。 急な引越だった。 いわゆる、オトナのジジョウってやつだ。 俺は、知恵熱で幼稚園を休まないといけなくなるほど、落ちこんだ。 この世の終わりみたいな顔をして、熱に浮かされたまっかっかで。 ゆでダコと閻魔さまがどうにかなって、子どもを作ったら、多分こんな顔だろう、みたいな感じで想像してくれ(我ながら、ちょっと意味不明…)。 熱くて、悲しくて、悔しくて、寂しくて。 そんな苦しんでいる熱でうるんだ視界に、ぬっと顔がさしこんだ。 [次へ#] [戻る] |