龍のシカバネ、それに月
3
その後は、舌を絡み合わせるように、……ゆっくり、深く。
小さな水音の隙間に、碧生さまの熱を帯びた息が漏れてくる。
それを覆いこむようにして、舌を差し入れた。
(この唇は、青鷹さんの唇……)
こんな際になっても、僕は僕にそんな子供だましみたいなことを思う。
覚悟を決めろ。
青鷹さんの役に立つ。
碧生さまのものになって、匣姫として、碧生さまの力を増幅させる……。
それが匣姫として、僕が青鷹さんに望まれている役目だ。
「…ぅ…」
碧生さまの喉から呻くような低い声が聞こえる。
膝にあった手が僕の手から離れて、腰を抱いて引き寄せた。
ぴたりとくっついた胸元から、すごく早い心臓の鼓動が伝わってくる。
「薬がかりとはいえ、誰かを抱きたいなんて、一生思わないと思っていた……これも匣姫の力か……?」
まだ熱い息を漏らしながら、掠れた声が顎を滑って首筋を伝う。
息と同じに熱い舌が、肩から顕になった肌を撫でた。
「朋哉……すごい。おまえの体から、匣姫の力が流れこんでくる……」
朋哉。
胸元に唇を寄せて、愛しい人の名前を言葉にする。
暖かく濡れていくのは、多分涙。
(『この体は、朋哉の体』……碧生さまは、僕と同じことを考えている……)
別の誰かを思って目の前の体を抱いている。
それを虚しいことだとは、僕にはとても思えなかった。
碧生さまの頭を両手に抱いて、大きな肩を抱きしめる。
堂々と、常に東龍を率いてきたという人が、まるで迷子になった子供みたいに見える。
朋哉さんも、先の匣姫もまた碧生さまを好きだったんだろう。
匣姫に、相手を選ぶ権利はない。
託占で出た朋哉さんの相手は、当時の東龍頭領後継 波真蒼治。
そして呪詛の日、波真蒼治に配されるはずの匣姫は北龍によって、手の届かない場所に行ってしまった。
それから12年。
一度も会えないまま、自らの心だけを焦がしていく。
――碧生。助けて。
今でも碧生さまには、朋哉さんの助けを乞う声が聞こえるんだろうか。
「…っあ……」
胸の尖りを舌で撫でられて、声が出た。
青鷹さんが碧生さまの飲物に混ぜた薬が、落ちついた目に熱を灯している。
龍であるこの人には、僕の“匣姫”の匂いも伝わっているんだろうか。
軽く歯を立てて吸い付かれると、ちゅっと音がする。
その音が、……嫌だ。
「優月くん、赤くなってきた……甘いのは、匣姫だからかな。罪な体だよね……」
ぎゅっと腰を抱きしめて、絞り出すような声で僕の名前を呼ぶ。
腹に当たる息は、やっぱり熱い。
「…っ……僕を、朋哉さんだと思って下さい……どの道、僕は東のものになったら、碧生さまのものになったんです。だから、このまま、……抱いて下さい……」
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