龍のシカバネ、それに月
2
(でももし、廊下や台所で、青鷹さんと出会ってしまったら)
かっと顔に熱が上った。
──僕……青鷹さんが好きです。
絶対、言うべきじゃなかった。
言うはずじゃなかった。
言ったことに偽りはないけど、青鷹さんは言われても困るだけだ。
なしにできるものなら、そうしたい。
僕が出ていった後、会談ではどういう話の展開になったんだろう。
僕を、碧生さまの力回復に使う。
あの提案は通ってしまったんだろうか。
(だから、部屋に碧生さまと二人きりに……したんだ?)
ドアノブにはもしかしてと思った通り、外側から鍵がかけられている。
ガチンと硬質の音がして、最後まで回らない。
それに何か、重そうなものがドアの向こう側に置いてあるような感覚がある。
「……青鷹さん。そこにいるんですか?」
なんとなく、ドアにもたれているのは青鷹さんのすわった背中のような気がした。
でも返事はない。
ただ何か荷物が置いてあるだけなのかもしれない。
僕はドアに両手をつけて、こめかみを触れた。
ひんやりとした温度が、寝起きの頭を冷やしてくれるようだ。
「青鷹さんを好きだって言ったのは、嘘ですよ。冗談……です。忘れて下さい」
向こうにいるのが青鷹さんでも荷物でも、どっちでも良かった。
自分が言いたいだけだ。
告白と同じで、僕はとても自分勝手だった。
碧生さまを大切にしている青鷹さんの気持ちを、これ以上邪魔しちゃいけない。
僕も、青鷹さんの大切な碧生さまの役に立つように頑張るから。
僕の中の気持ちは、言葉の通り、全部冗談になると良い。
そろそろとベッドに戻って、荒い息の碧生さまの目元に唇をよせた。
ぼんやりとした目がゆっくり開いていく。
「今……朋哉が、いた……」
……夢? と続く碧生さまの言葉に、僕は目を細めた。
夢かもしれない。
夢じゃなかったかもしれない。
朋哉さんはここに来て、碧生さまと僕に、ひそかな言葉を伝えて帰って行ったのかもしれない。
まつげの影の下、碧生さまの目が僕の姿を見止めた。
「……優月くん? どうして、ここにっ……どうして私は……」
は、は、と小刻みに息を吐きながら体を起こした碧生さまは、体の反応に気づいたようだった。
もう一度目の前の僕を見て、苦笑を浮かべる。
「酒に混ぜたのか、青鷹のヤツ……まったく、無理矢理だな……」
僕は──碧生さまのお役に立つ。
それが、青鷹さんの願いなのだとしたら。
叶えることが、応えることが、僕が青鷹さんにしてあげられるたった一つのことだ。
「……? 優月くん……?」
膝の上にある碧生さまの手に、手を重ねて。
下から、碧生さまの口元に唇をよせた。
触れるようにそっと。
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