龍のシカバネ、それに月
6
皆、運命を変えられてしまった。
……運命が変わった? どこから?
「前に、灰爾さんは言いましたよね? 『南が手を出さなければ北は』って。あの時、青鷹さんが途中で止めてしまったけど、あれは何を言おうとしていたんですか?」
あれは、僕の両親の話だったんじゃないのか?
灰爾さんは「それは、ヒトコトじゃ言えないなぁ」と苦笑いを浮かべて、僕の顔をじぃっと見つめてきた。
「今晩とか俺に時間くれたら、じっくり教えてあげるんだけどなぁ」
「……ふざけてます?」
あ、怒った、と笑う。
それから少しだけ考えて(多分、考えたようなフリをして)、灰爾さんは「代わりに良いこと教えてあげる」とにんまり笑った。
「良いこと?」
耳元に手のひらで庇を作り、灰爾さんは唇を寄せた。
小さな小さな声が、秘密をつむぐ。
──青鷹は『龍殺し』って異名がある。
(“龍殺し”)
何その殺伐とした感じの異名は。
実際に、龍の誰かを殺した……とか?
固まって思考をめぐらせていると、耳を熱い舌で撫でられた。
「ひゃっ……!?」
「油断大敵―♪」
「優月」
灰爾さんとは別の方向から名前を呼ばれて、振り返る。
暮れはじめた庭園に、青鷹さんが立っていた。
「帰るぞ」
碧生さまの件はどうなったんだろう。
会談は終わったのだろうか。
隣に座っていた灰爾さんがさて、と立ち上がって、僕の手を取って引き上げてくれた。
「じゃあ帰って、美味しいもの食べて、寝るとしますか。姫」
「うん……」
灰爾さんの軽い口調に微笑が浮かぶ。
庵の外まで連れ出してくれて、僕の手を青鷹さんに手渡した。
僕の手をきゅっと握ってから、青鷹さんは「灰爾」と通り過ぎようとする背中に声を追わせた。
しゃり、と土を鳴らして灰爾さんが振り返る。
「さっきはすまなかった。その……優月を、ありがとう」
時折詰まらせながら言う青鷹さんに、灰爾さんはにんまり笑った。
「どういたしまして。でもさ、いつまでも泣かしてると俺が優月ちゃん、もらうからね?」
「……肝にめいじておく」
青鷹さんの固い返答に小さく笑ってから、灰爾さんは踵を返して行った。
土の鳴る音が少しずつ遠ざかっていく。
「碧生さまは、青鷹さんにとって、特別なんですね」
どうしてそんなことを言ってしまったんだろう。
さっきまで灰爾さんが頷いて聞いてくれていたから、胸のうちが外に出やすくなっているのかもしれない。
青鷹さんは握った僕の手に、唇を掠めた。
「優月も、俺にとっては特別だ」
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