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龍のシカバネ、それに月
5

「優月ちゃん、可愛いし、正直だし、悪い子だし。俺、好きなんだよね。上手くやれると思わない? 俺たち。大事にするよ?」

 僕が思っていることを先読みして安心させてくれる。
 調子の良いことを言いながら、本当はすごく優しい人だ。
“匣姫”だからじゃない、僕自身を好きだからと言ってくれる。

「俺こう見えて、健気に待つタイプだから。優月ちゃんが諦めきれないなら、青鷹とフタマタにしてくれても良いよ? そのうち、俺のほうが良いって、わかるだろうし。それまで俺、泣きながらハンカチ噛みしめて、鬱陶しく待つからさ」

 軽い笑い声が出てしまう。

「ありがとうございます、灰爾さん」

「うわ。俺、今、軽くかわされてる感じ?」

 灰爾さんはぽんぽん髪を撫でてくれて。

「灰爾さんといると、すごく楽しいです」

 そうでしょう、と力強く返してくる言葉にまた笑ってしまう。

『でも』。
 まだ、僕は。
 碧生さまのために奔走する青鷹さんのことばかり、考えてしまう。

「青鷹さんはどうして……碧生さまのために、あんなに一生懸命なんだろう……」

 ふと頭で考えてたことが口から流れ出ていたのがわかったのは、灰爾さんが、きょとんとした顔をしたからだ。

「えーやだなぁ。他の男の心情ってやつを、俺が答えるの?」

「すみません……」

 東龍の中のことはわからないけど幼なじみとしてなら、と前置きをして。
 灰爾さんが教えてくれたのは、青鷹さんの家の話で。

 青鷹さんのお父さんは名のある色名だったこと。
 それなのに頭領後継にも匣姫にも興味がなくて、龍ですらない女性を妻にしたこと。

「お母上は亡くなったんだよ。青鷹を生んですぐ」

「どうして……」

「上の海路さんは龍だけど、ほとんど一般人だから出産にも影響なかったんだろうけど。次の子がいきなり色名龍じゃ、耐えられなかったんじゃないかな、普通の女性には。
義青(よしはる)さんは凄腕の色名龍だったって話だったけど、まさか一般女性が色名龍を生むなんて誰も思ってなかったんだろうしな」

 青鷹さんはそれを自分の責任だと思い続けているんだろうか。
 でも、それだけじゃ、碧生さまに執心する理由にはならない気がする。

「実際に青鷹が碧生さまに仕えるようになったのは、中学に上がったころだから、つまり……呪詛のあった翌年になるかな」

 12年前。
何かを知りたいと考え始めると、必ず突き当たる場所は12年前の呪詛の頃だ。

 あの時、先の匣姫 朋哉さんは北龍にさらわれ生死不明。
 それによって、朋哉さんを思っていた碧生さまは色名を少しずつ削がれていってしまった。
 同じ時に、蒼河さんの父で、当時の東龍頭領後継であった波真蒼治さんは、命を落としてしまった。
 碧生さまはその代わりとして、後継者に指名され、青鷹さんが仕えるようになった。

 きっとこれだけじゃない。
 西にも、南にも、それぞれに何か事情が変わったに違いない。


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