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龍のシカバネ、それに月
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 部屋は庭園よりも少し、暖かく感じた。
 三龍の熱い熱弁でもあったんだろうか。
まだこの辺りの地図が広げてあったり、その上に駒が散っていたりしている。

 三龍とその後継たちは、僕が入ってくるのを見て、また頭を下げた。

「あの、すみません。お楽になさって下さい……」

 そう声をかけると、元の姿勢に戻ってくれる。
 これってずっと続くのかな。
 多分、この先も慣れることないと思う。

 お茶を飲んでいる南龍頭領 朱李さまの後ろに、朝陽が腰を下ろすのが見えた。
 すぐに紅騎さんが近づいて、朝陽に何かを耳打ちして。
 二人そろって僕を見ている。
 なんとなく気恥ずかしくなって、うつむいてしまう。

(紅騎さんと朝陽。二人並んでいるのを見ると、やっぱり似てる)

 朝陽と僕は、あんまり似てると言われることなかったけど、あの二人はやっぱり実の兄弟だ。
 年は離れてるけど、朝陽と僕よりずっと雰囲気が合う。

 うっすらと嫉妬めいたことを考えながら、青鷹さんが手渡してくれたお茶を飲んだ。

「布陣の際に、それぞれの色名龍を確認しておきたいと思うんだが」

 どうか、と案を提示する朱李さまに、雪乃さまが即座に「異存ございませんね」と答えた。
 彼らが軽く言ってのける重々しい議題を耳にすると、思わず息がこぼれる。

(布陣とか、色名龍の名簿確認とか)

 やること結構あるんだな、と思っていると、朱李さまがこっちを見ているのに気がついた。

 まさか僕に意見を求めてるんじゃないかと、焦って青鷹さんを振り返ると、青鷹さんは藍架さまを見つめていた。
 よく見ると、朱李さまが見ているのも僕じゃなくて藍架さまだ。
 早とちりにまた汗が滲んだ。

「東の。藍架殿」

 促すように名を呼ぶ朱李さまに、藍架さまが眉間に皺を刻んだまま、息を吐いた。

「色名の名簿な。よろしい」

 それぞれの後継が今は補佐として動いているのは、見てわかった。
 話の流れを読み取り、必要な書類を頭領の元へと流していく。
 その所作は東、西、南と足並みが揃っていて、見ていて清々しいほどだ。

「12年前の呪詛以後、心弱らせ、色名を失う者が増えておる。嘆かわしいことだ」

 朱李さまが紅騎さんから受け取った書を板張りに広げながら言う言葉に、藍架さまがふむ、とかああ、とか小さな相槌を打つ。
 東龍頭領は、どちらかと言えば無口なたちなようだ。

(ちょっと浩子さまに似てる気がする)

 父親としゃべり方が似てると言ったら、浩子さんは怒るだろうか。

「それ以前は匣宮のおかげさまで、長きに渡り平和でございましたからね。慣れた平穏を壊され、心辛く思う者も増えたのでございましょう」

 なんせ先の匣姫が消えたのですからね、と雪乃さまが語る話を聞いて、碧生さまが動揺したりしないか、少し心配になった。

(『先の匣姫』って言葉が出るとなんとなく緊張してしまうけど、大丈夫みたいだ。良かった)


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あきゅろす。
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