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龍のシカバネ、それに月
5

「ねぇ、朝陽。南龍のお屋敷では良くしてもらってる? 困ったりしてることない?」

 手を繋いだまま飛び石を歩きながら、朝陽はびっくりしたような顔で振り返った。

「優月……まだ兄ちゃんでいてくれるんだ?」

 あんな別れ方したのに、と空いた自分の手を見つめる。
 もちろん今は光っていない。
 この手が、龍の力をはらんで飛ばしたのを、この目が見てしまった。

「優月も知らなかったよな? 俺もずっと、優月がたった一人の兄弟だと思ってたよ。同じに、月哉のことは父さんだと思ってたし、桜子のことは母さんだと思ってた」

「…………」

 父さんと母さんのことを名前で呼ぶ朝陽には違和感がある。
 紅騎さんの実弟だと知らされていても、南龍に行って間がないのに馴染んでいるのにも違和感を感じるのは、朝陽の兄弟でありたい僕の、我が儘なんだろうか。

「正直なところ、俺にもまだ実感はないよ。いきなり会って、本当の家族だと言われてもな」

「南龍頭領の朱李さまが、朝陽のお父さん、ということ?」

 朝陽のことを次男だと紹介した。
 息子だ、と。
 後は兄である紅騎さん。

「そう。お母さん、もいるんだよ。優月」

「お母さん?」

 繋いだ手を引いて、庭園の端に位置する庵へと導いて、朝陽は真摯な顔で僕を見つめた。

「保村茜(ほむら あかね)。……妹の名前は、桜子」

「え……それって、母さん……」

 茜。
 鮮やかな、色のある名前。
 色名龍。
 朝陽の実母が、母さんの姉さん? 

 佐藤桜子。
 桜子の桜は桜色の桜……。
 やっぱり母さんは、南の色名龍だったのか。

 額にかざされた手が光って見えたのは、龍の力。

「母さんも、南の色名龍だった、てこと?」

 そうだね、と庵の椅子に腰をかける。
 僕もその隣にすわった。

「呪詛で龍たちが匣姫を失ったのが、12年前。すぐに匣姫を救出に向かったんだろうけど、龍たちがもう1つの可能性を思いついたのは、すぐだったんじゃない? つまり」

 匣宮の血筋を引く生き残り――匣宮月哉を捜しだすこと。

「でも、当時父さんは、匣宮月哉は亡くなっていた。しかし、月哉には能力を引く子供――優月がいることを見つけ出した。
 当初、同じ両親から生まれた子供なのに、どうして優月だけに能力があるのか疑問だったけど、これで合点がいったよ。
俺は月哉と桜子の実子じゃなかった。匣宮の血が入ってないんだから、能力があるわけがない」

「朝陽……それを、いつ知ったの?」

 南龍に行ってからかな、とこともなげに返してくるけど、そんな大きな事実、一人きりで受け止めるのはどれほど苦だったか。

「大丈夫」と笑う朝陽に影はない。

 そばにいたい。
 いてやりたい。
 いて、ほしい。

 でももう、僕には朝陽のそばにいられる肩書きがない。

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