[携帯モード] [URL送信]

龍のシカバネ、それに月
3

 目が合うと、雪乃さまと同じように笑みを見せてくれた。

 月を背に、先の匣姫の名前を口にしていたあの姿など、僕の悪い夢だったみたいに。
 碧生さまの前に座した、濃い緑色の和服に羽織を着たこの人が……東龍頭領。

「東龍頭領、井葉藍架(いば らんか)でございます、匣姫」

「おっ……お世話になってますっ……! 佐藤優月です」

 存じております、と浩子さんと同じ受け答えをするこの人は、間違いなく碧生さまと浩子さんのお父さんだ。

(ていうか、こんなに重々しい会だなんて、聞いてないよ! どう挨拶して良いか、わからないし!)

 焦りすぎで顔が硬直しそうになっている所に、紅色の和服姿の人が僕に向かって会釈をした。
 彼の背後に座っているのは、紅騎さんと――

(朝陽。この方は、南龍だ)

「保村朱李(ほむら しゅり)。南龍頭領でございます、匣姫」

 低い声。
 鮮やかな営業スマイルとともに頭を下げて。
 やっぱりお辞儀されたこっちが緊張してしまう迫力がある。

「は、初めまして。よろしくお願いいたします」

 慌てて頭を下げる僕に、やんわりとした声が降ってきた。

「堅くなることはありませんよ、匣姫さま」

「雪乃さ……西龍」

「これは軽めの集まりですからね。誰も貴方を取って食おうだなんて、思ってやしませんよ」

 取って食われる!?

(ていうか、この人たちの言う『軽め』って何!? すごく重いんだけど!)

 変な汗が背中を伝う。
 全然リラックスできない。

 碧生さまはいつだったか「三龍を集めるから優月くんも同席して、どこに配されたいか考えてみると良い」って言ってたけど。

(無理。なんか、どこに配されても、ついて行けない気がしてきた……)

「時に南龍殿。貴殿の後継は、紅騎殿と伺っておりましたが。もう一人?」

 雪乃さまののんびりした語り口調に、朱李さまが「ああ」と今気づいたような声を上げた。
 朝陽のことだ。

「長きに渡る護衛に任じておりました次男が帰って来ましてな。挨拶を――朝緋」

 後半は朝陽を振り返って促した。

(“長きに渡る護衛”……“次男”……)

 朱李さまの紹介に引っ掛かりながら、少し前へと膝を進める朝陽に目を移した。

「保村朝緋です。この度、匣姫さまの護衛より帰還致しました。よろしくお見知りおきのほどを」

(“保村朝緋”……“匣姫護衛”……)

 朝陽とは思えない台詞と一緒に、保村朝緋と名乗る。

 僕の知っている朝陽じゃない。
 雪乃さまが「護衛、ですか」と意味ありげな目を朝陽に向ける。

(何?)

 雪乃さまの背後から、灰爾さんもちらりと南に目をやっている。
 南のほうもそれを受けて、眉間に影を落とした。

[*前へ][次へ#]

3/7ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!