龍のシカバネ、それに月
2
三龍が集まる場所に仕掛ければ、一撃で全滅させられる可能性もある。
「じゃあ、上が危ないじゃないですか。浩子さんとか。別の場所にしたほうが良かったんじゃないですか!?」
意外と、危ないとされている匣宮で集まるとか。
逆に意表を突くかもしれない。
僕の提案を聞いて、青鷹さんは明らかに不満そうだった。
「北龍が来るかもしれないから場所を変えるなんて……なんか嫌。例え地下だろうが、東龍屋敷だからそこはOKって言うか」
それだけ言い切ると、降りきった階段の踊り場にある扉に手を掛けた。
……『嫌』って。
(嫌とか嫌じゃないとかで済む話なのか?)
素朴に浮かんだ疑問を飲み込んでいると、青鷹さんが扉を開いて僕に先に出るよう、手招きをくれた。
足元にある靴に足を差し入れて、一歩外に出るとそこは。
(東龍屋敷……!?)
地上にある東龍屋敷と寸分違わぬ家が、そこにあった。
庭園の池まで、もしかすると鯉の数まで同じかもしれない。
(シェルターって言うから、体育館みたいなの想像してた)
広い駐車場には幾つも車が止まっている。
車でも来られるらしい。
ということは地上と道が繋がっているのか?
ばらばらと立っている薄緑色の服を着た男女が、青鷹さんの姿を見止めると次々に頭を下げていく。
よく見ると、彼らの手がうっすらと光を帯びていた。
「東龍一族の護衛だ。今日のために集まってもらった。普段はそれぞれの配置についている」
「こんなにたくさん?」
「今日は蒼河が統轄している」
呼ばれてないし暇だからな、と雑なことを続けて言う。
東龍頭領になると公言して憚らない蒼河さんが、三龍会談の日に護衛の統轄を任じられているなんて。
(怒ってそう……)
屋敷の玄関を抜け、地上のものと同じ廊下を進んで、広い部屋に出た。
庭園に面した板張りのがらんとした部屋に、夢で見たのと同じ配置で、やや年配といえる和服姿の男たちが座っていた。
(三龍)
青鷹さんと僕が入ってきたのに気づいて、全員が頭を下げた。
青鷹さんってそんなに偉いのか、と感心していると、背後から当の青鷹さんに耳打ちされた。
「敬礼を受けているのは優月だから。声をかけて終わらせて」
「え!? 僕!? え、あの、皆さん顔をあげて下さいっ……」
青鷹さんが言った通り、僕の声かけで三龍が姿勢を正した。
匣宮に対する敬意なのだと理解はしていても、自分よりずっと年上の人たちにそろって頭を下げられるとどうして良いかわからない。
そんな迫力のある三龍の中で見たことがあるのは、白っぽい着物をきた西龍――雪乃さんだけだ。
目が合うとうっすらと微笑んでくれる。
その後ろに、灰爾さんがスーツ姿で控えている。
同じように、東には東龍頭領。
会ったことはないけど、背後に控えているのが碧生さまだからわかった。
(碧生さま)
姿を見るのは、あの夜以来だ。
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