龍のシカバネ、それに月
1
箱が、山積み。
匣じゃなくて、箱。
新しいスーツが入った箱が、和室いっぱいに積まれていて、その幾つかは既に、浩子さんの手によって開けられていた。
「何だ、この箱群っ?」
僕の背後から部屋を覗きこんだ青鷹さんが、ぎょっとした顔で声を上げる。
その声で、幾つかの箱を開けて中身を物色していた浩子さんが顔をあげて、こっちを見た。
「遅かったですね、優月さま。さぁ、早く脱いで下さい」
「え!?」
『軽めの格好ですよ』と言った昨晩の浩子さんの言葉を、ちょっと深めに考慮して、学校の制服を着て部屋を出てきた。
迎えにきてくれた青鷹さんはいつものスーツ姿で、僕の服装には何も言わなかったから、安心してたんだけど。
浩子さんは何枚かのカッターシャツを手に、怖い顔でじりじりと迫ってくる。
「『三龍会談』をナメていらっしゃいます? 『正装』と言えば狩衣まで着ていただきます」
「!?」
じゃあ、『軽めの服装』っていうのはどのレベル!?
(って、このレベルなんだ……)
部屋着中に散らばるスーツとシャツを代わる代わる顔に照らし合わせる浩子さんの形相が尋常ではない。
助けを求めようと振り返ると、青鷹さんは強ばった笑顔で一歩後ずさった。
(無理か)
結局、着せ替え人形と化した僕に、一着のスーツを選び出してくれるのに、浩子さんは一時間を費やした。
「会談、間に合うんですか?」
悠長に廊下を歩いている青鷹さんに早口で問うと、うんと短い返事をくれた。
「場所、ここだしね」
「あ、そうだったんですか」
てっきり車で移動するものだとばかり思っていた。
「匣宮があれば集合場所は当然、匣宮なんだけど。その次は匣姫が配された場所、ということになる。でも」
匣姫――僕はまだどこにも配されていない。
「てことで、仮の場所として、今優月が寝泊まりしている東龍屋敷が、集合場所となった」
「……よくわかりました」
と相槌を打ちながら、周りに目をやる。
人気のない廊下を進んで、見たことのない扉を開ける。
足元は地下へ続く階段だった。
両脇の壁に取りつけたオレンジ色の明かりが、落ちついた色の絨毯を貼った階段を明るく照らし出している。
「この階段って、日常的に使われている場所なんですか?」
先を降りていく青鷹さんが「いや」と否定した。
「地下は東のシェルターみたいなものだから、なにか避難させる時に開放するが。まぁ、今回は北龍対策だろう」
そうか。
普段ばらばらの場所にいる三龍頭領が一所に集まる日。
さっき青鷹さんが説明してくれたような、集合場所のしきたりは北龍だって承知している。
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