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龍のシカバネ、それに月
2
 でも疑問に思ってしまったのだ。
 碧生さまは今の東龍、藍架さまの長男であられて、バリバリの色名龍だ。
 その彼が匣姫と一緒になっても、誰から文句が出ると言うのだ。

「色名の中でも、次の頭領になるくらいの力がないと、いくら好きでも匣姫さまなんて手に入らねーぞ」

「でも匣姫さまは、碧生さまのこと好きなんじゃないの?」

 灰爾が吹いている草笛の音が耳に障るのか、青鷹はしかめっ面で、その笛を奪って投げ捨てた。

「匣姫さまに、誰かを選ぶ権利はないよ。皆、託占で決まるんだ」

「占いで選ばれれば、俺も匣姫さまをもらえるってわけか!」

 げらげら笑う灰爾に青鷹が「小学生に、匣姫さまのお相手が勤まるわけないだろう」と怒る。

「でも俺は大人になったら、ぜってー匣姫さまゲットするね!」

 灰爾が言うのにつられて、つい「俺も俺も」と言ってしまう。
 冷ややかな目をした青鷹が「頑張れば?」と白けた。
 紅騎はやっぱり無言だった。








 篝火が炊かれる。
 夜の藍色をより深く焦がすように、ちらちらと火の粉が舞い上がる。
 匣宮に集まった龍の一族は、入りきれないほどで、色名を持たない者はほとんどが土塀の外にいた。

 幼いながらに色名を賜っていた俺を、母は誇らしげに狩衣で飾りたてた。
 俺を見る目は嬉しそうでいて、しかし匣宮を見る目は悲痛に見えた。

(お母さまは、色名がないから、中に入れない。匣姫さまの舞が見られないのが悲しいの?)

 母は昔、色の名を持っていた。
 西から嫁いできた母は、色名を持つ西龍の一族の娘で、将来を属望されていた東龍の一族、父のもとに来て俺を産んだ。
 一人息子の俺は産まれてすぐに色名を賜る力の持ち主で、母もさぞ鼻が高かったことだろう。

 だが、彼女はまもなく、色名を失った。
 今にして思えば、母は“ここにいない”夫の心がどこにあるのか、色名を失うほどの心を使いきってしまったのだと思う。
 だが、幼い俺には彼女の苦しみを解することはできなかった。

「お母さま。匣姫さまの舞を、お母さまの分も見てくるから。ちゃんと、どんなだったか話してあげますからね!」

 だから、元気を出して下さい――
 そうですね、と笑った顔もどこか寂しげで。
 迎えに来てくれた青鷹に連れて行かれるまで、母は遠目で匣宮を眺めていた。




「今夜、託占が降りるんだ」

 俺と同じ、薄い緑色をした狩衣姿で青鷹が言う。

「? たく……」

「つまり、匣姫さまがどの龍の誰にお嫁に行くか、決まる日ってわけ!」

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あきゅろす。
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