龍のシカバネ、それに月
4
「答が必ずしも、望んでることばかりじゃないと思うけど。それでも知りたいの?」
そう問うと、優月は「うん」と返してきた。
(『うん』、なぁ)
目の前に現れた小さな“匣姫さま”は俺より一個年下という、見た目はただの中学生だ。
両親を亡くしたというのに、おっとりしていて、天然で。
俺が遠目で見ていた美しい“匣姫さま”と随分違う。
カタブツを絵に描いて具現化したみたいな青鷹の目をすり抜けて東龍屋敷から出てきたうえ、平然と西龍と世間話をしている。
多分、浩子さまにもらったんであろう羽織を、いつまでもバカ正直に頭からかぶって、まだ目くらましに役に立っているつもりなんだろうか。
(馬鹿だよなぁ……可愛いけど)
何も知らせないまま、傷つけないまま、どこかに片づけておきたくなる。
青鷹も、同じようなことを考えて、優月に何も教えないでいるのだろうか。
匣宮で、大切に慈しまれた匣姫は、はたして幸せだったのだろうか?
もうすぐ匣宮に到着する。
優月は何と言うだろう?
帰りたくなってしまうだろうか。
その時俺は、優月に何を思うだろう?
──色名の龍なら、匣姫を欲して当たり前だ。
俺は、そのせいで優月を欲しいと思っているのだろうか。
青鷹は馬鹿みたいに碧生さまに忠誠を誓っているし、灰爾は……紅騎は……。
夕焼け空に風がわたる。
さわさわと木々を揺らし、優月がかぶった羽織の裾を揺らしている。
その大きな目は、崩れた土塀を映していて。
俺は小さな嘆息を洩らすと、見開いて揺らぐその瞳に駆け寄るのだった。
SS 了
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