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龍のシカバネ、それに月
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「……っ……」

 私には言えないか、と碧生さまは笑った。

「可哀想に。青鷹に匣姫捜索を任じた、私が悪いね。君たちを出会わせてしまった。出会わせておいて、取り上げるのも私なんだから、君たちにしたらたまらないだろうね」

「碧生さま……」

 する、と衣擦れの音を立てて、碧生さまは縁側に出た。
 黒にも近い藍色の夜空に、薄い月がふわりと浮かんでいる。

「これほどにして受け継いでいく必要があるのかな。龍って」

 答えなんて求めていない、独り言のような問い。
 きっと誰にも答えられない。
 答えにたどり着くのを諦めたような、そんな独り言。

「……もし、必要じゃなかったら、滅びていくものだと思います。深海の生物が、色を捨てたように」

 世界が龍を不必要だと認識した時、龍は消えてなくなるんじゃないかと。
 月を見上げたまま、碧生さまはくすくす笑い声をたてた。

「? あの……」

 変なこと言ってしまったかな、と汗をかいていると、やっぱり月に視線を縫い付けたまま「似てるな」と碧生さまは言った。

「君は、先の匣姫さまに似てる。同じ答えをくれる」

「先の匣姫さまも『龍は滅ぶ』って言ったんですか?」

 自分も言ったから大きな声では言えないが、楚々としたイメージのある先の匣姫にしては、ずいぶん乱暴な発言だ。

「匣宮の血が言わせるのかな。私が知ってる匣宮の人間は、みんな顔に似合わず思いきったことを言う。月哉さんも……トモヤも、君も」

“トモヤ”。
 初めて聞く名前だ。月から振りかえって、碧生さまは目を合わせてきた。

「先の匣姫は、私の幼馴染みはトモヤといって、君のお父さん、月哉さんの弟だ。君から見たら叔父さんだね」

 叔父。
 父さんの、弟。

(先の匣姫は、父さんじゃなかった)

 朝陽にそんなことを言われてから、ずっと気になっていた。
 実は父さんは死んでなくて、一人匣宮へ帰ることを余儀なくされたんじゃなかったのか。
 呪詛を受けた先の匣姫は、父さんだったんじゃないのか、と。

 父さんは12年前28才。
 実際にはそれより前に亡くなっていた。
 碧生さまは当時18才。
 二人を幼馴染みと呼ぶには年齢差がある。

 父さんに弟がいたことは初めて知ったけど……おそらく、碧生さんと似た年頃なんだろう。

「どんな字で、トモヤって書くんですか……?」

 聞きたいことは山ほどあるのに、どうしてそんなことを聞いてしまったのか。

「『朋哉』。ダブルムーンの『朋』だ」

 でも、と碧生さまは切ない目をして、月をちらと振り返った。

「月は、二つも要らなかったな」

 ……どういう意味だろう。
 わからなかったけど、碧生さまの苦しそうな顔を見ていると聞くことはできなかった。

「朋哉がいなくなって、匣宮が壊滅して。東龍は次期頭領だった蒼治(そうじ)さま――蒼河の父親に当たる人も亡くして、めちゃくちゃだった」

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あきゅろす。
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