龍のシカバネ、それに月
2
「ふ…ぅっ、んんっ…はるたかさっ…」
しがみついたまま涙をこぼすこめかみに、青鷹さんが唇で触れてくる。
こめかみ、耳元、まつげ、額。何度も何度も。
「優月……」
優しい声で名前を呼ばれると、勘違いしてしまう。
青鷹さんも僕を好きでいてくれてるんじゃないかって。
これは指南じゃなくて、好きで抱きあってるんじゃないかって。
(そう思えたら幸せだ)
指南があるうちは、青鷹さんのそばにいられる。
こうして甘い声をあげて、抱いていてもらえる。
誰かに配されたら、もうこんな風に優しい声で名前を呼んでもらえない。
「青鷹さん…おなか…熱…」
うん、と返してくる青鷹さんの息が聞こえる。
少し荒くなった呼吸音。
溶けかけているみたいな舌で耳を撫でられると、下腹に力が入って、青鷹さんの指をぎゅっと食いしめてしまう。
「中、溶けて……どろどろ。すごい」
たどたどしく言葉を紡ぎながら、唇が口許を食んできた。
舌先で唇を開かされて、伝う銀糸が僕の舌に絡みつく。
薄甘いそれが心地良くて、自分から青鷹さんの口腔に舌を伸ばした。
「…んっ、ふ…んんっ…」
顎に流れていく唾液が、ぞくぞくと体を震わせる。
被さってくる青鷹さんが、信じられないくらい熱かった。
(あ……僕に、反応してくれてる……?)
下腹に当たる熱が、嬉しかった。
ただの、生理的反応でも良い。
僕を欲しいと思ってくれることが嬉しい。
唇に触れる青鷹さんの息が熱くて、忙しなくなってくる。
熱をもった眼差しが僕を見つめて、緩く潤んで。
(もっと、求められたい……青鷹さんになら、全部あげたい)
体に宿る龍の力を、一滴残らず青鷹さんに飲み干してほしい。
絡み合う脚に、一際熱を持ったものが当たっている。
僕の脚の付根を行き来して、指が出ていった後の潤んだ蕾を撫でていく。
意識的にか無意識にか、どうにかして青鷹さんを受け入れたいと、唇を貪りながら腰を揺らめかせていた。
「っ……ゆづ…」
水音と荒い息の隙間に、僕の名前を呼んでくれる。
熱に浮かされた目が、それでもギリギリの理性を以て踏みとどまろうとしていることも、見える。
碧生さまに忠実で、碧生さまのために僕を導いている青鷹さんを、壊したいと思うわけじゃない。
ただ、一度でもいいから、青鷹さんが欲しくて。
彼の肩に両腕を絡めて、濃い桃色に染まった耳元に囁くように言った。
「……願いです、…一度だけ……」
「……きだ……」
僕の浅ましい誘惑の隙間、青鷹さんの小さな声が聞こえた。
「好き……だ、優月……」
そう聞こえたのは、そう聞こえたいと思う僕の幻聴だったんだろうか。
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