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龍のシカバネ、それに月
7

 男の手を振り払い、腹に蹴りを食らわせて、道路に飛び出した。
 緩やかなブレーキで、車は止まった。
 大きな、多分外車だ。

 運転していた人が降りてきたのを見て、彼に駆け寄った。

「君、」

「助けて下さいっ、あの人が僕を連れ――」

「蒼河(そうが)さん」

 僕を連れて行こうとした男が呼んだ名前に、目の前の人はぴくっと反応した。

 2人は、仲間だ。
 反射的に踵を返す僕を、背後から片腕で捕まえてくる。

「待ってよ、優月くん」

「離して下さいっ……」

 体を反転させられて、目の前に手のひらがかざされた。

(手が、光ってる……)

 蒼河、という名前の彼に片腕を掴まれたまま、光る手のひらから目が離せない。
 まるで光が視覚を通して体に染み入ってくるみたいだ。
 動けない。

「俺はね、青鷹みたいに気が長いほうじゃないんだ。かと言って、君に青鷹のほうへ行ってもらっても困る」

「はる……たか?」

 青鷹。
 久賀青鷹。
 久賀さん。

(この人、久賀さんとも知り合い?)

 蒼河さんは小さく笑った。
 僕の腕を握る手に、さっきよりも力が入る。

 痛い、と言おうとするのに、唇が動かない。
 蒼河さんが腕を掴んだまま、僕のシャツの襟元を割り開くようにして首筋に唇を押しつけてきた。

(っ!? 何……)

 押しつけられた唇が熱い。
 肌と密着しているそこが、僕の内側と繋がっているような。
 体が熱くて、視界が緩んでくる。

(嫌っ…熱……)

 ひざが震えて立っていられないのに、翳される光のせいで無理矢理立たされている感じがする。
 ちろ、と肌を舐めて、僅かに唇が離れる。
 足元の不安定さに気づいたのか、僕の腰を抱き込んできた。

「本当に君はすごい。流れこんでくる……」

「っ…はぁ…」

 すぐに雨水がシャツを濡らして、浮き上がってきた熱をさらさらと流していく。
 それでも、体の内側に灯された熱は、しばらくちらちらと揺れているような気がした。

「蒼河! 優月から手を引け!」

 ふいに自分の名前が呼ばれたような気がして、かろうじて目だけを動かす。
 雨が視界を遮る中、久賀さんが走ってくるのが見えた。
 その後ろに朝陽が追いかけてくる。

「あさ……」

 良かった。
 朝陽がいた。
 無事に、ちゃんと走れて、僕のそばにいてくれる。
 朝陽に手を伸ばしだいけど、それもできない。
 体が動かない。

(熱い……動けない)


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