龍のシカバネ、それに月
2
あっさりと、僕の言いたかったことを先回りに言ってからコーラを口にする。
「…………」
ほら当たった、と眉間にしわを浮かばせた。
「わかるよ、優月の考えてることなんて。何年一緒にいると思ってんの」
「だっ……だったら、わかってよ、朝陽。だって、僕のせいで朝陽……朝陽は普通の人間なのにっ……」
目の前に紙ナプキンが差し出される。
それを受け取って鼻をかんだ。
「ここで優月を放り出したら、母さんに祟られる」
ずっと三人で幸せな思い出を作ってきたんだから、と続く台詞は母さんの口癖だった。
せっかく、今まで幸せな思い出を作ってきたんだから。
(“幸せな思い出を”)
幸せでいようね。
……幸せな思い出だけを残そうね。
――今のはなし。残すのは幸せだけでいい。良い子ね、優月……。
髪を撫でる手が額にかざされた。
手のひら。
ふんわりと広がる光は、母さんの手を包んでいて……。
…………。
(……? なに、この記憶……)
違う。
ただの逆光だ。
背の低い僕が見上げた母さんの後ろには、部屋の明かりがあった。
ただそれだけのことだ。
「優月! 朝陽!」
自動ドアを抜けて、足早に入ってきたのは青鷹さんだった。
店内の客の注目を一身に浴びながら近づいてくると、僕の手を取った。
「探した。帰るぞ。朝陽も用意しなさい」
「青鷹さんっ……」
手を引かれて立ち上がりながら、咄嗟に、井葉の家で朝陽に言われた台詞を思い出してしまった。
――そんなに、久賀のことが好きなの!?
あの場に青鷹さん本人もいて、とても顔なんて見られなかったけど。
(僕が、青鷹さんを、好き)
そう、なのかな。
そばにいたい理由は、好きだから?
そんなことを聞いて、青鷹さんはなんて思っただろう、と思うだけで、顔が急速に熱くなってきた。
「優月? どうし……」
「だって、あの、すみません、僕」
うまい返しかたも見つからなくて、多分赤くなってる顔をうつむかせていると、間に朝陽が割って入ってきた。
「行こう、優月。久賀には言ったろ。あんたは要らない」
ぐい、と引いて、僕の手を青鷹さんから取り上げる。
そのまま店を出ていく朝陽を追いかけて、青鷹さんが「二人では無理だ」と繰り返すけど。
「朝陽、お願い。青鷹さんの話を聞いて。信じられないかもしれないけど、本当のことだから」
険しい顔をして振り返った朝陽が返してくる。
「優月? なに言ってんの? あんなのが本当なわけないだろ」
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