龍のシカバネ、それに月
5
むすっと不機嫌をあらわにする朝陽が喚いた。
「そんなに、久賀のことが好きなの!?」
「っ!? 朝陽こそ、なに言ってんの!?」
真っ赤になっちゃって、と余計怒る朝陽を前に、両手を頬に被せた。
確かに熱い。
赤いかどうかまではわからないけど。
そばにいる青鷹さんの顔が気になるけど、そっちを向けなかった。
「誰が誰を好きなのー?」
俺そういうの大好き♪ と続けながら現れた二人組の、にこにこしている人のほうを僕は見知っていた。
「……灰爾、さん。ですか?」
「うわっ! 匣姫ちゃんが俺のこと知ってる! 感激! なんで?」
大袈裟に笑う灰爾さんは、三日前、謎の山道で青鷹さんと一緒に僕を助けてくれた人だ。
背中に傷を負った青鷹さんの代わりに、僕のことを運ぼうと申し出てくれていた。
うっすらだけど覚えている。
「この間は、助けて下さってありがとうございました」
いいのいいの♪ と調子の良い返事をする灰爾さんに「おまえ、何もしてないだろ」と青鷹さんが突っ込んでいる。
それに対しても笑いで返している灰爾さんの後ろに立っているもう一人は、初めて見る顔だった。
ひっそりと静かにいて、見ている先は……
(朝陽……? なんで朝陽のこと見てるんだろう)
当の朝陽は見られていることに気づいてなくて。
怒った目で、僕を見ていたみたいで慌てて目を逸らした。
「俺は西の林灰爾(はやし はいじ)。青鷹とは同い年。こっちは俺らより一個下で、南の保村紅騎(ほむら こうき)。よろしく、優月ちゃん」
「よ、よろしくお願いします……」
やたらフレンドリーな灰爾さんにもなかなかついていけないんだけど、終始無口な紅騎さんにもどうして良いかわからず、頭を下げた。
灰爾さんが口元を緩ませて、僕の真後ろに立っている青鷹さんをじっと見る。
「もっとちゃんと、俺らのこと紹介してよ。東の“指南役”殿」
後ろからすごく小さな舌打ちが鳴った後、耳元に唇を近づけた青鷹さんが補足だが、と続けた。
「二人とも、それぞれ次期、西龍頭領、南龍頭領の有力候補だ」
ということは、つまり。
僕が配される可能性がある人――。
東の碧生さまか、西なら灰爾さん……南なら、紅騎さんに……。
足が、無意識に後ずさって、灰爾さんに「傷つくわー」と笑われた。
「だ、だって、すみませんっ……」
一瞬うつむいたその隙に、ずいと体を割り込ませて。
目の前に紅騎さんが来たと思うと同時に浴衣の襟元をつかんで、もう片手で顎を捕らえられた。
何かを言う前に、唇を重ねられて舌を割り込まれた。
「っ!?」
甘くて小さい何かが、舌で押し込まれて口の奥に入り込んだ。
「っ、ん、ごほっ……なにっ!?……」
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