龍のシカバネ、それに月
3
「大丈……」
大丈夫と言いかけて、先にお腹の虫が鳴いた。
(は、恥ずかしいっ……!)
すぐ食事の支度をさせようね、と近くの女性に声をかけてくれた。
「すみません……」
「三日も寝てたら、そりゃ、お腹も空くだろうね」
「三日……三日も寝てたんですか、僕」
うん、と碧生さまは頷いた。
「お腹に影を仕込まれるだけでも大変だっただろうに、青鷹の傷も治したそうじゃないか。回復に三日なら、早いほうだ」
影、と言われてあの泥を思い出した。
青鷹さんに掻き出される行為は死ぬほど恥ずかしかったけど、あれがなかったらどうなっていたのか。
「君も、先の匣姫さまと同じ運命を辿ることになったと思うよ」
僕の頭の中の疑問を見透かしたように、碧生さまは答をくれた。
「君をあそこまで誘い出したのも、彼らだろうしね」
“彼ら”。
またはっきりしない言葉だ。
ごくんと、自分の唾液が下る音を聞いてから、僕は思いきって疑問を口にした。
「『彼ら』……というのは、北龍のことなんですか?」
一瞬驚いてから、碧生さまは困ったような顔をして微笑した。
「頭の良い子を、私は嫌いじゃないけど。君は不幸になりそうで怖い気がするね」
「教えて下さい! 僕には東と西と南に選ぶ道があると言った時に、貴方は『北は例外』だと言いましたよね? それは対立しているのが、北龍だからですか?」
夢の中、舞手を観覧していたのは東と西と南。
北は空席。
夢に意味なんてない。
そう思いたい。
だけど僕を奪いに来ようとする龍は『西』と『南』だった。
『北』は匣を必要としていないのか?
時折もたげてくる疑問を、教えてもらえるまではと飲み込んできた。
碧生さまは目を合わせたまま答えた。
「そうだよ。匣宮を呪詛で壊したのは、北龍だ。今は東も西も南も壊したいらしい」
三日前、東龍屋敷を襲ってきたのも、影を操っていたのも……北龍。
「呪詛の時、当時の匣姫は北龍に連れ去られたんですか?」
『生死もわからない』と碧生さまは言っていた。
事件の時に殺されたのを見たわけではないということだと思った。
碧生さまは一度目を瞑って、ゆっくりと開いて言った。
「先の匣姫さまは……私の幼なじみだった」
答が答になっているのかどうか。
でも僕には、それ以上のことを聞くことはできなかった。
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