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龍のシカバネ、それに月
1

 ……シャン……シャン……
 …………

(鈴の音がする)

 神社で使われるような、幾つもの鈴が、一定の拍子を刻んでいて。
 それに笛の音が綺麗に重なっていく。

 ぱちぱちと小さな音をたてて燃えている篝火があちらこちらに立てられていて、夜の藍色から景色を守っていた。
 中央に、真四角の舞台があった。

 壇上には美しく着飾った舞手が一人、手に鈴を持って踊っている。
 ゆっくりと揺らめく腕と脚を見ていると、人間とは思えない。
 天女? 幽鬼? ……狐狸?
 幻想的な動きはまるで、幻の世界に引き込んでいるかのようで、じっと見ているのが恐ろしい気さえする。

 四角い舞台を囲むようにして、観覧席が設けてある。
 平安貴族が着るような狩衣姿の男が三人、それぞれ東、西、南の席を埋めている。
 北は空席だ。

 そこまで見ていて、初めて気がついた。

(ここは、匣宮だ)

 今は壊滅して失われた社。
 滅びた屋敷。
 雅楽と共に舞手が妖艶に揺らめくこの宴は、いったい何だと言うのか。

 ふいに、音が止まった。
 動きを止めた舞手が、袖で顔を隠したまま、僕を振り返った。
 さらさらと衣擦れの音をたて、舞台を降りて近づいてくる。
 シャラン、と鈴が鳴いた。
 ひんやりとした鈴が、僕の顎の下に差し入れられた。

『………………』

 なに?
 聞こえない。

 袖で隠された顔の、口元だけが見える。
 薄く紅色に塗った唇が、何事かを話している。
 鈴の音は聞こえるのに、声が聞こえない。

 舞手は、ついと空を見上げた。
 僕も、その視線を追う。
 月が雲に隠されて、舞台が影っていく。

 色の重い雲が幾重にも重なり始めると、場は騒然とし始めた。
 舞を鑑賞していた三人の男たちが、それぞれの兵を集め始め、やがて……雲の隙間から現れたのは……。









「わああっ!……っ……」

 自分の声で目が覚めた。
 反射的に起こした体は、布団の中だった。
 小綺麗な浴衣の胸元が激しく鼓動を打っている。

(夢……)

 なんだか、妙に現実味を帯びた夢だった。
 滅ぼされた社で踊る舞手と、それを眺める三人の男。
 東、西、南……空席の、北。

 男たちは四龍だったのではないだろうか。
 顔までは見えなかった。

(でも、もし見えたとしても四龍だったかどうか、僕にはわからないよね。会ったことがあるのは、実体じゃない雪乃さん……西龍だけだし)

 敷かれた布団のそばに、突っ伏して眠っている朝陽がいた。
 随分、久しぶりに見た気がする。

「お目覚めですか。匣姫さま」


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