龍のシカバネ、それに月
5
先に朝陽にかけておこう、とたどたどしく通話作業をすると、コールを一度も待たずに朝陽が出た。
『優月!? いつ帰ってくんの!? 今夜から同じ部屋にしてもらったんだぜ、山瀬さんがベッド入れてくれてさ!』
弾んだ声色で、ほっと安心する。
「良かったね。新しい学校は行ったの? どうだった?」
『大丈夫。つまんねーけど、ちゃんとやれた』
「つまんねーとか言わないの。でも、ちゃんと行けたみたいで良かった。それと僕、今夜は井葉さんの家に泊めてもらうことになって、帰れな――」
『なんで!? そんなの嫌だ、ダメに決まっ――』
僕の手元から携帯が浮いて、青鷹さんの手で終話された。
「……まだ、途中です」
「際限がないだろう、朝陽の言い分を聞いてたら」
ホーム画面に戻った携帯を返してくれる。
こんなことしても、また朝陽のほうからかかって来そうな気もするけど。
「朝陽からは、滅多なことではかけてこないように言ってある」
「え」
廊下を歩き始める青鷹さんの後を追いながら「朝陽に何か言ったんですか!?」と問うと「秘密」と返してくる。
(あの朝陽を黙らせる魔法の言葉を、この短期間で見つけ出すなんてすごい。まだ僕にもわからないのにっ……)
久賀家と同じように、似たような障子がずらっと並ぶ中から、1つを選んでさらりと開ける。
「ここが、井葉家での優月の部屋になる」
和室に必要な家具が置いてあるだけの、シンプルな部屋。
向こう側に続く襖が一枚開いていて、布団が敷いてあるのが見えた。
「僕の部屋……泊まるのは今日だけ、ですよね?」
「お許しも出たんだ。優月が好きな場所で指南を受ければいい」
碧生さまに、思いきって聞いて良かった。
「僕がここに呼ばれた日は、青鷹さんも一緒に来てくれる……わけじゃないですよね……」
「来れる時はできるだけ来るから、そんな顔するな」
「……!?」
どんな顔!?
手で頬に触れてうつむいていると、まだ濡れている髪を大きな手が撫でていった。
「あの。指南してくれるのが青鷹さんで良かったです。緊張しなくて済みます。色々教えて下さい」
髪に触れていた手が止まって、青鷹さんは複雑な表情を浮かべた。
「? どうし……」
「俺で良かったのか? 今からでも間に合う。優月から碧生さまに言えば、碧生さま自らして下さるはずだ。優月も、次期東龍から直接指南を受けたほうが良いだろう」
「僕は……青鷹さんが良いです。今までも色んなこと教えてくれたし」
「今までのことと、匣姫指南は全然違う!」
語調荒く言いきる青鷹さんの勢いに、思わず肩をすくめた。
「ご、ごめんなさい……僕、わかってなくて……」
「…………。知らなくて当たり前だ。まだ何も教えてない。
……30分後、迎えに来る」
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