龍のシカバネ、それに月
4
碧生さまは「いいよ」とあっさり返してくれた。
「……え」
「指南は好きなところで受けてくれて構わない。私が呼んだ時は顔出してほしいけど」
「もちろん、ちゃんと来ます!」
じゃあ、と碧生さまは立ち上がった。
「堅苦しい話はこれでおしまい! 私はもう一度風呂に入ってくる。二人とも今夜は泊まって行くといい。床の用意をさせよう」
早口でそれだけを言うと、襖を開けて出て行ってしまった。
(……なんだか、ペースに従いていきにくいって言うか……)
残された青鷹さんが立ち上がりながら、目で従いてくるように促してきた。
廊下に出る青鷹さんに従って、部屋を出る。
ぴかぴかに磨かれた廊下に、月光が照り返していた。
「一度、朝陽に電話しときたいんですけど、ダメですか?」
するすると心地好い衣擦れの隙間に、遠慮しながら言葉を差し入れると、青鷹さんはその場でひた、と立ち止まった。
浴衣の袂に手を入れて、出てきた時には携帯があった。
「優月のだ。朝陽には今朝渡しておいた。俺と朝陽のデータは入れておいた」
「っ!!!! 僕の、携帯っ!? うわっ……持つの初めてですっ!」
電源どこですか、から始まって順に教えてもらって、ようやく通話を押した。
呼び出し音が鳴っている。
と同時に、ピリリリとシンプルな着信音が廊下に響いた。
青鷹さんが驚いた顔で、自分の携帯を取り出して耳に当てる。
「……相手を間違えてるぞ。目の前にいる人間にかけて、どうする」
携帯からも聞こえる青鷹さんの声がなんだか不思議で、口許にふふっと笑みが浮かんだ。
「間違えてません。青鷹さんにかけました。最初に、青鷹さんにかけたくなったんです」
一瞬言葉に詰まってから「バカだな」と笑う声が携帯から聞こえる。
「切るぞ」
「あ、待って下さい。せっかくかけたのに……もうちょっと話させて下さい」
「ここにいるんだから、普通に話せば良いだろう」
呆れたみたいに言う声も、携帯から聞こえるってだけで新鮮な気がする。
「あの、何から何まで、朝陽のことも、ありがとうございます。青鷹さん。すごくすごく感謝しています」
「…………。今日みたいに、何も言わずに消えられたくないと思っただけだ」
ぷつ、と通話が途切れる。
僕の携帯画面を覗きこんで、切る時は……と教えてくれる。
それから目を合わせて、息を吐いた。
「蒼河がいたから良かったものの。何年経ったからと言っても、匣宮に近づくべきじゃない。まして優月は、匣宮の人間なんだから」
蒼河さんがそばにいてくれたこと、ちゃんと知ってたんだ。
だから僕を自由に行かせてくれていたのか。
「僕も、呪詛をかけられかねない、てことですか?」
「……そうだ」
携帯を片づけて、僕が朝陽にかけるのを待つそぶりを見せる。
朝陽も気になっているけど、まだ続けて質問したいこともある。
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