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龍のシカバネ、それに月
3

 ごくりと唾液が下る音がする。

 目を上げると青鷹さんが視界に入った。
 黙ってはいるけど、まだ何かを言いたそうな、そんな顔をしている。

 青鷹さんは、僕に東龍以外の場所に行ってほしくないのだ。
 ずっとハコである僕を探して、ようやく見つけ出して、碧生さまに引き合わせた。
 このまま碧生さまのハコになることを望んでいる。

(碧生さまの、ために)

 胸に広がるもやもやの正体はいまだにわからない。
 僕は、恩人である青鷹さんの望みなら叶えたいと思うのに。

 青鷹さんが、大切にしている人のために。

「僕は、ここで。東でお世話になりたいと思っています」

「……他は見ないで決めて良いの?」

 碧生さまの静かな声に「はい」と返した。
 目が合うと碧生さまはにこっと笑った。

「無茶を言ってしまったな。そのうち四龍……というわけにはいかないが、三龍を集めてみることにしよう。優月くんも顔を出してみて、その時もう一度考えると良い」

 三龍が集まる。
 まだ先のことだというのに、緊張が走る。
 でも僕は、他の龍を見たところで多分、移る気にはなれない気がする……。

「ねぇ、青鷹」

 碧生さまが青鷹さんを振り向かないまま呼びかけるのに、青鷹さんは「はい」と答えた。

「私は優月くんが欲しくなったよ。こんなに可愛くて、美味しそうな匂いで」

「……はい」

 青鷹さんの返事が、なんとなく小さく聞こえるのはうつむきかげんだからか。

「優月くんが『龍の長の匣姫』となるよう、その指南役を青鷹に任じる」

「――っ!? それは次期東龍御自ら――」

 言いかけた青鷹さんに、碧生さまは今度は振り返る。
 碧生さまがどんな顔をしていたか、僕からは見えなかったけど。

「今は東を選んでくれてる優月くんが、今後別の場所を選ぶことになるかもしれない。どこへ行ってもある程度、匣姫として生きていけるようにね」

「優月は、東以外には行かせません。東の匣姫になると優月が選んだんです。だから碧生さまから指南を──」

「なぁ、青鷹。乗りかかった船じゃないか。優月くんも青鷹を慕っているようだしね?」

「…………。承りました」

 碧生さまは一度青鷹さんに頷くと、僕に向き直った。
 そのまま、いずまいをただして手をついて、頭を下げられて、ぎょっとした。
 次期東龍が、僕にお辞儀なんて。

「東龍は貴方のために、できうる限りを尽くします。匣姫さま」

 言葉遣いが変わった。

「あの。よ、よろしくお願いします」

 僕が言うと、二人はそろって頭を下げた。
 このまま匣姫さま扱いされるのはなんだか息苦しい。

「優月くんが本来、匣姫として匣宮で受けられなかった指南は、青鷹がするから、わからないことは遠慮なく聞いてね」

「あ、あの。僕、久賀さ……青鷹さんの家に帰れますか?」

 こんなこと、碧生さまに聞いたら気を悪くされるかもしれない。
 でも朝陽のことも心配で、それにやっぱり僕は、青鷹さんと一緒にいたい。


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