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龍のシカバネ、それに月
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 眉間に、物凄いしわを刻んだ青鷹さんの前に正座させられてます。

「……ごめんなさい」

 出ていく前からこうなることはわかっていたけど、いざ直面するとこれしか言葉がなかった。

「宗家を抜け出して、たった一人で、それも寄りによって呪われた匣宮に行こうとするなんて、まったくどういうつもりで――」

「まぁまぁ、青鷹。優月くんも無事だったんだし、良いじゃないか。ねぇ?」

 際限なさそうな青鷹さんのお説教を止めてくれながら、碧生さまは湯飲みを唇につけて、美味しそうにすすり飲んだ。

「やっぱり日本茶だよねぇ」

 のんびりした口調で言う碧生さまを振り返る青鷹さんの眉間は、まださっきのままだ。
 居たたまれない。

 蒼河さんは井葉の家の前まで送ってくれた後、さっさと帰ってしまった。
 同時に今の顔で出てきた青鷹さんに、中へ引っ張りこまれて、そのまま風呂場に連れて行かれた。
 浸かった後、ぱりっとした浴衣に身を包んで現在に至る。
 真っ黒に日焼けした逞しい体に、僕の着ているものと同じ浴衣をまとった碧生さまは、青鷹さんより少し年上に見える。
 部屋に連れて来られたときからここにいて、にこにこしながらお茶を飲みつつ、怒られている僕を眺めている。

(優しそうな人だ)

 顔を合わせた時から、ずっと笑顔でいてくれて。
 青鷹さんに怒られているのは僕が悪いんだけど、そばでこうしていられると、少しほっとできる。

(この人が、東龍? 青鷹さんが僕に会わせたい、って言ってた人?)

 怒られている最中だというのに、そんなことを考えていた僕の前で、碧生さまは青鷹さんを振り返った。

「そろそろ良いかな、青鷹」

「はぁ」

 ことん、と湯飲みが置かれて音を立てる。

 真正面にすわっている碧生さまと、ばしっと目が合う。
 慌てて逸らそうとするも、にこっと笑まれると逸らせなくなる。

「優月くんは、中学生くらい?」

 碧生さまの斜め後ろにすわっている青鷹さんが、咄嗟に俯いた。

(なんで笑うっ!)

「いえ、あの。高2、です」

 そうなの!? と大きめの反応をする碧生さまに、青鷹さんはやっぱり俯いたまま、小刻みに震えている。

「俺は30くらい? そろそろ年とるの止めようかと思ってる。あ、あと、東龍の息子です」

「…………。……えっ?」

 今のセリフ、後半がメインだよね!?

(東龍の息子? 東龍本人じゃなくて?)

 驚いて言葉を失っている僕に、碧生さまの後ろから青鷹さんが驚いた言葉を差し入れた。

「碧生さまは東龍の長男であられて、次期東龍の声が高いお方だ。つまり」

 僕は、碧生さまのハコになる……てこと?

 碧生さまは僕に向き直って、こほんと小さな咳払いを見せ「じゃあ本題」と言ってその場に立ち上がった。


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