龍のシカバネ、それに月
1
眉間に、物凄いしわを刻んだ青鷹さんの前に正座させられてます。
「……ごめんなさい」
出ていく前からこうなることはわかっていたけど、いざ直面するとこれしか言葉がなかった。
「宗家を抜け出して、たった一人で、それも寄りによって呪われた匣宮に行こうとするなんて、まったくどういうつもりで――」
「まぁまぁ、青鷹。優月くんも無事だったんだし、良いじゃないか。ねぇ?」
際限なさそうな青鷹さんのお説教を止めてくれながら、碧生さまは湯飲みを唇につけて、美味しそうにすすり飲んだ。
「やっぱり日本茶だよねぇ」
のんびりした口調で言う碧生さまを振り返る青鷹さんの眉間は、まださっきのままだ。
居たたまれない。
蒼河さんは井葉の家の前まで送ってくれた後、さっさと帰ってしまった。
同時に今の顔で出てきた青鷹さんに、中へ引っ張りこまれて、そのまま風呂場に連れて行かれた。
浸かった後、ぱりっとした浴衣に身を包んで現在に至る。
真っ黒に日焼けした逞しい体に、僕の着ているものと同じ浴衣をまとった碧生さまは、青鷹さんより少し年上に見える。
部屋に連れて来られたときからここにいて、にこにこしながらお茶を飲みつつ、怒られている僕を眺めている。
(優しそうな人だ)
顔を合わせた時から、ずっと笑顔でいてくれて。
青鷹さんに怒られているのは僕が悪いんだけど、そばでこうしていられると、少しほっとできる。
(この人が、東龍? 青鷹さんが僕に会わせたい、って言ってた人?)
怒られている最中だというのに、そんなことを考えていた僕の前で、碧生さまは青鷹さんを振り返った。
「そろそろ良いかな、青鷹」
「はぁ」
ことん、と湯飲みが置かれて音を立てる。
真正面にすわっている碧生さまと、ばしっと目が合う。
慌てて逸らそうとするも、にこっと笑まれると逸らせなくなる。
「優月くんは、中学生くらい?」
碧生さまの斜め後ろにすわっている青鷹さんが、咄嗟に俯いた。
(なんで笑うっ!)
「いえ、あの。高2、です」
そうなの!? と大きめの反応をする碧生さまに、青鷹さんはやっぱり俯いたまま、小刻みに震えている。
「俺は30くらい? そろそろ年とるの止めようかと思ってる。あ、あと、東龍の息子です」
「…………。……えっ?」
今のセリフ、後半がメインだよね!?
(東龍の息子? 東龍本人じゃなくて?)
驚いて言葉を失っている僕に、碧生さまの後ろから青鷹さんが驚いた言葉を差し入れた。
「碧生さまは東龍の長男であられて、次期東龍の声が高いお方だ。つまり」
僕は、碧生さまのハコになる……てこと?
碧生さまは僕に向き直って、こほんと小さな咳払いを見せ「じゃあ本題」と言ってその場に立ち上がった。
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