龍のシカバネ、それに月
8
「俺が言ったのはふざけただけだ。西龍は……西龍も、おまえを匣姫にするつもりで、そう呼んだんだろうよ」
「西龍“も”?」
他に誰が、と言いかけて唇を閉じた。
(青鷹さん……)
僕に、東龍のハコでいろと言った昨晩を思い出す。
青鷹さんのハコになると言ったら激しい語調で怒られた。
ベッドの中で唇を重ねてきたのは、ただ寝ぼけていただけか、それとも。
青鷹さんもまた、蒼河さんの言った『護衛代』みたいに、僕の体内にあるらしい力を食んだに過ぎなかったんだろうか。
「おまえも匣宮で生まれてりゃ、匣姫教育を施されてさ。そんな駄々漏れに、触れられただけで誰彼なしに力を与えるような体にならずに済んだかもな。でも」
そういえば薬の時に、そのうちコントロールできるようになると青鷹さんが言っていた。
匣宮はもう潰れている。
いったいどうやって?
蒼河さんの話の続きを聞くために、振り返ると、蒼河さんは困ったような顔で口許だけに笑みを浮かべていた。
「でも、ここで生まれて育てられた匣姫が幸せだったかどうかは、わからない」
「他の匣姫って……ここにいた人たちは今、どうしてるんですか?」
さあね、と短い言葉が返ってくる。
「匣宮は12年前、呪詛を受けて壊滅した。当時の……今の、と言うべきか。匣姫は行方知れずだ」
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