龍のシカバネ、それに月
7
「ああ、そうだけど。体のより奥を繋いだほうが、たくさん貰えるから」
しれっと言ってのける。
こだわっている僕がバカみたいに思うのは、この一族のパターンなの!?
「力は……ダメです、誰にでもあげちゃいけないって、青鷹さんに言われてます」
「あっそ」
するりと腕を解いて、前を歩いて行く蒼河さんの後を、羽織を拾って追いかける。
「なんでそんなに青鷹の言うこと利くのかな」と独りごちるのが聞こえてくる。
(『なんで』って言われても……)
僕にもわからない。
強いて言えば、保護者に近い存在だから?
そんな理由より何より、僕自身で青鷹さんの役に立ちたいって思う、と言うか。
理由は、はっきりしない。
そんなことを思う反面、言いつけを守れず、一人抜け出して来ている。
「あの、蒼河さん。ハコミヤの家まで、連れてって下さい」
蒼河さんはちらっと僕を見て息を吐いた。
すごく面倒だと言わんばかりの顔に、思わず反論が飛び出した。
「ごっ、護衛代、受け取ったじゃないですか」
「そうでした。『匣宮』なぁ……。今、行っても何もないぜ?」
「青鷹さんもそう言ってました。でも、ハコミヤ……匣宮は、僕の父さんの実家だって、海路さんが言ったのを聞いたんです。どうしても行ってみたい」
ふうん、と白けた返事をして蒼河さんは先を歩く。
しゃらしゃらと音を立てて、雪駄が追いかける。
「それって何? 郷愁? 一度も行ったことなくても、郷愁って湧くの?」
「わかりません……ただ、わからないことを、1つでも減らせたら良いと思って」
ふうん、とまた同じ調子の返しが来る。
「答が必ずしも、望んでることばかりじゃないと思うけど。それでも知りたいの?」
知らぬが仏ってあるじゃん、と続く。
蒼河さんの言うことはある意味正解だと思う。
知りたいと思う、でも知るのが怖い。
このまま進むのが怖いと、いつでも思っている。
うん、と答えると、ふうん、と返ってくる。
さっきと同じだ。
そのまま、無言で随分歩いた。
慣れない雪駄の足は靴擦れができてしまうほどに。
夕焼け空の下、崩れた土塀と、草の生えた屋根が見えた。
まるでここだけかが天災に遭った後のように見える。
「これが……匣宮……?」
殆どが崩れている土塀はしかし、広大な土地を囲っていた。
その中にある建物は原型を留めてはいない。
点在する建物は回廊で繋がっていたようだ。
まるで社のような形で、そのすべてが崩れていた。
草が延び放題で、年月を経ているのを感じる。
「ここで、代々の匣姫は生まれて、育てられて、四龍の一人に与えられる」
背後に立ち、ずっと黙って歩いてきた蒼河さんが突然口を利いたのに驚いた。
「匣姫……? さっき雪乃さん……西龍も、蒼河さんもそう呼んだ。『さすがハコヒメさま』って」
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